速達性なし!? 珍しい「普通列車より遅い急行」に乗ってみた “食堂車”で沿線グルメに舌鼓

岐阜県の恵那~明智間を結ぶ明知鉄道は、急勾配や急カーブをレストラン列車がゆっくり走ります。料理に舌鼓を打ちつつ、特色溢れる駅や沿線を紹介します。

沿線には「日本一急勾配な駅」も

 岐阜県の恵那~明智間を結ぶ明知鉄道には、「勾配日本一」という飯沼駅(中津川市)があります。急勾配上に駅が設置されており、その度合いは33パーミル(1000m進むと33m上がる坂)。ほかにも2度の峠越えや曲線半径200m以下の急カーブが14か所もあるなど、沿線は厳しい地形です。ここを走る珍しい「普通列車より遅い急行」に乗ってみました。

 明知鉄道の前身は国鉄明知線で、1922(大正11)年に公布された「改正鉄道敷設表第63号」で「遠美線」として計画された路線の一部です。1933(昭和8)年に大井(現・恵那)~阿木間、1934(昭和9)年に阿木~明知間が開通しました。

 遠美線は、東海道本線の掛川駅(静岡県掛川市)を起点に、遠江二俣(現・天竜二俣)駅、飯田線の三河大野駅を経て、大井(現・恵那)駅を結ぶ計画で、「遠江」と「美濃」を結ぶ鉄道でした。掛川~天竜二俣間は二俣線(現・天竜浜名湖鉄道)の一部、恵那~明知(現・明智)間は明知線として建設されましたが、それ以上延伸されることはありませんでした。

 ただ、こうした経緯から山間部にある阿木村(現在の中津川市南部)を経由するルートで建設されたこともあり、坂やカーブが多く、最高速度は60km/hに制限されています。そのため、恵那~明智間は50分程度かかり、停車時間を含めた平均速度である表定速度は30.1km/hと、山間部の鉄道の厳しさを感じさせるゆっくりとした速度で走ります。

明智?明知? どっちが正解?

 現在の明知鉄道は、1985(昭和60)年に国鉄明知線を第3セクター鉄道「明知鉄道」に転換したもので、この際に町名に合わせて明知駅を「明智駅」に改名しています。なお、1934(昭和9)年の開業時は「明知町」だったのですが、1954(昭和29)年に静波村と合併して明智町となり、2004(平成16)年の「平成の大合併」で恵那市明智町となり現在に至ります。

 厳しい地形だけではありません。明知鉄道は、地方鉄道で多く見られる観光レストラン列車において先駆者と言うべき存在で、1987(昭和62)年には「寒天列車」を運行しています。

「寒天列車」は、大正元年から100周年となる2011(平成23)年、急行「大正ロマン号」へと進化しました。明智駅が最寄りで、大正時代の町並みを再現した「日本大正村」にちなんだネーミングで、明智行きの「大正ロマン1号」には、料理を提供する予約制の食堂車が連結され、時刻表にも「和食堂車マーク」がついています。メニューは季節によって異なりますが、「懐石料理 寒天列車」「じねんじょ列車」「きのこ列車」を中心に、「冷酒列車」「枡酒列車」「おばあちゃんのお弁当列車」も運行されています。

 なお急行列車ではありますが、乗ることを目的とした列車なので、所要時間は普通列車より6分長く、速達性はありません。

 筆者(安藤昌季:乗りものライター)は2024年秋、恵那駅12時25分発の「大正ロマン1号」の「きのこ列車」に乗車しました。この食堂車は珍しいことに、予約が7名以上ある場合は平日でも連結されます。当日は団体が入り、24名が利用していました。

レストラン列車のパイオニア 出てきた料理に舌鼓

 JR中央本線 恵那駅のホームが一部切り欠けとなっており、明知鉄道の列車はそこを発着します。大きなヘッドマークを付けた「大正ロマン1号」が入線してきますが、4両の長い編成がホームに収まりません。先頭車両へは2両目から乗車することになります。

 料理はきのこ小鉢3種、土瓶蒸し、天ぷら、鮎の甘露煮、きのこの炊き込みご飯、果物などと品数が多く、郷土料理も相まって個性豊かです。

 ウリであるきのこ料理は、土瓶蒸しに松茸が入っているほか、あみ茸やろうじ茸など、珍しいきのこも使われていました。地域の名産である寒天料理も食感が楽しく、さすがレストラン列車の老舗と思える味です。

 さて、「大正ロマン1号」は前出の飯沼駅をゆっくりと通過しました。12時51分には、2008(平成20)年開業の極楽駅に停車。明知鉄道で最も新しい駅で、近くにある極楽寺にちなんだ駅名です。入場券が縁起物として売れているそうです。

 ただ開業後、「極楽らしさが足りない」という理由で2019(平成31)年に改修されています。そのため、筋斗雲をモチーフとしたレリーフのある待合所や、待合室内の地蔵菩薩像など、なんとも極楽らしさが強調された駅になっています。

 寒天資料館を併設するレストラン「かんてんかん」が入る山岡駅などを過ぎ、13時19分に明智駅へ。ここには国鉄C12形蒸気機関車と車掌車が置かれており、構内をSL運転体験で往復することもできます。

 終点で急行「大正ロマン号」の乗客は、一部が観光バスに、一部が「日本大正村」に分散していきました。25.1kmの明知鉄道は、列車にも沿線にも見どころが豊富です。

externallink関連リンク

すごい坂! 「勾配日本一」駅を見る(写真)所要時間おなじ場合も!? 「特急列車vs高速バス」 東京‐安房鴨川で軍配はドッチに?「観光バスに対抗だ」←なら、お座敷列車じゃないよね 「若者を呼び込め!」で生まれた異色の国鉄客車とは
externallinkコメント一覧

コメントを残す

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)