
アメリカのトランプ大統領がインドへF-35戦闘機を売り込む意向を明らかにしました。しかし、これにはさまざまな障害があります。仮にホンネではF-35を導入したくても、インドは難しいかもしれません。
じつは熱望されていたF-35
2025年2月13日、アメリカのドナルド・トランプ大統領とインドのナレンドラ・モディ首相がワシントンD.Cで首脳会談を実施。終了後の共同記者会見でトランプ大統領は、2025年度からインドへの兵器の売却を増やし、最終的にはF-35戦闘機を売却したい意向を明らかにしています。
筆者(竹内 修:軍事ジャーナリスト)はこのニュースを耳にして、2015(平成27)年に開催されたパリ・エアショーの会場で知り合ったインド人ジャーナリストと一緒に、わかりにくい場所で行われていたF-35の説明会場を、二人で一緒に探した時のことを思い出しました。
「日本はF-35を買うから、自分が必死にF-35の説明会場を探すのは当然だけど、インドは買う予定ないんだから、君は必死になって説明会場を探すことはなかったんじゃないの」と、会見終了後に冗談で聞くと、彼は微笑を浮かべながら「もし君がインド人だったら、自国の海軍の空母にF-35と(ロシア製の)MiG-29のどちらを載せたいと思う?」と返されて絶句してしまいました。
筆者はインド政府やインド空軍の要人からF-35の評価を聞いたことはないのですが、F-35へ強い関心を持ち、自国に欲しいと考えるインドの方々がおられるのだということを、その時初めて実感しました。
それから10年が経過し、今回のトランプ大統領の発言により、インドはF-35を入手する絶好の機会を得たわけですが、仮にインド空軍やインド海軍がF-35を求めたとしても、本当に入手するには大きな障害が二つあります。
その一つがインド空軍の運用している、ロシア製「S-400」地対空ミサイルの存在です。
インドは建国以来、ロシア(旧ソ連)から多くの兵器を輸入しています。S-400のロシアからの購入もそれ自体は驚くべき話ではないのですが、アメリカは第一次トランプ政権時の2019(令和元)年に、S-400を購入したことを理由にトルコへのF-35の引き渡しを拒否、さらに開発パートナーであった同国をF-35プロジェクトから排除しています。
2025年2月現在もトルコはF-35プロジェクトから排除されたままなので、アメリカがインドへF-35を売却する場合、トルコの事例との整合性をどのようにして持たせるのかが問題となります。
インドが掲げる「国策」が最大の障壁に?
もう一つの問題が、インドが推敲している国家プロジェクト「メイク・イン・インディア」です。
インドではモディ氏が首相に就任した2014(平成26)年から、製造業を発展させるため主要な産品をインド国内で生産する「メイク・イン・インディア」プロジェクトを推進しており、その一環として軍の運用する外国製兵器も、極力インド国内で生産してきました。
ところが、F-35に関してアメリカは原則としてライセンス生産を認めていません。F-86Fからアメリカ製戦闘機のライセンス生産を行ってきた日本もその例外ではなく、航空自衛隊が運用しているF-35A戦闘機は、アメリカなどから部品やコンポーネントを購入して最終組み立てを行うノックダウン生産によって供給されています。なお、F-35のノックダウン生産が認められているのは、日本とイタリアの2か国だけです。
航空自衛隊がF-4EJ「ファントムII」の後継機を選定していた2000年代後半、アメリカはF-35Aが採用されれば、価格ベースで40%程度、F-35Aの国産化を認めるという提案をしていました。この提案は主に日本側の事情で実現せず、ノックダウン生産と完成機の検査、一部部品の国産化などで落ち着いたのですが、当時この提案に対しては、F-35プロジェクトに開発パートナーとして参加していた国々から、不公平なのではないかという批判の声も存在していました。
インドがF-35を購入する場合、最低でもノックダウン生産容認程度の条件を引き出せないと、「メイク・イン・インディア」と矛盾が生じてしまいます。アメリカが日本とイタリアにF-35のノックダウン生産を容認した理由の一つは、両国に第5世代戦闘機の最終組み立てができる技術力と製造基盤があると判断したことにあります。
一方、インド空軍はフランスからダッソー「ラファール」戦闘機を36機購入しています。インドは19号機以降をライセンス生産する計画でしたが、インド側の製造基盤の能力不足により、全機フランスからの完成機輸入に切り替えています。
トランプ大統領が共同会見で述べた「最終的」がいつごろなのかは不明確ですが、それがトランプ大統領の任期中を意味するもので、かつインドが「メイク・イン・インディア」と矛盾せずにF-35を導入したいのであれば、技術力と製造基盤を急速にレベルアップする必要も生じますが、それは容易なことではありません。