
大阪・関西万博へのアクセスで最も重要な乗換え駅となるであろう「弁天町駅」が変わります。JR線は高架、ならば地下鉄は当然その“下”……ではないために利用者が戸惑いがちでした。これがどう変化するのでしょうか。
「地下鉄が“上”です」そうは思わないよね…弁天町駅
東京や大阪に住む人は「地下鉄は必ずしも地下だけを走っているわけではない」と知っています。東京では東京メトロ丸ノ内線がたびたび地上に顔を出しますし、大阪では大阪メトロ御堂筋線が梅田と新大阪のあいだで地上に出て、それ以北で国道423号「新御堂筋」の上下線に挟まれた高架区間となるなど「地上を走る地下鉄」になじみがあるからです。
ただそれ以外の地域に住む人にとっては「地下鉄は地下を走る」という認識が一般的でしょう。そのため、高架ホームで電車を降り、地下鉄に乗り換えるときは、無意識のうちに下りのエスカレーターや階段を探すはずです。しかし「地下鉄が地上を走る区間」では、そうした行動により、間違った方向に進むことになってしまいます。
JR西日本の大阪環状線と、大阪メトロ中央線が乗り入れる「弁天町駅」も、そうした“間違い”が起きやすい駅の一例です。
中央線は、建設にあたり、この地域の浸水被害の可能性や地盤沈下への対策として、阿波座駅から大阪港駅付近は地上の高架とされました。そして弁天町駅では、そもそも高架となっている大阪環状線のさらに上で交差する構造となっています。
そのため大阪環状線のホームから中央線に乗り換えるには、ホームにある「地下鉄(中央線)」の案内に従い南口改札を出て、すぐ目の前にある階段を「下る」のではなく、左手の階段を「上がる」必要があるのです。
こうした理由から、改札口を出て正面には「大阪メトロきっぷうりばは階段の上」と書かれた大きな看板が設置され、利用客に正しい乗り換えルートを案内しています。
ところが、こうしたわかりにくい構造も、将来的には過去のものとなりそうです。それは、2025年4月13日に開幕する「大阪・関西万博」にともなう駅舎改良工事により、乗り換えの導線が大きく変化するためです。
万博の会場となる人工島の夢洲へは、各所からのバスも用意されますが、主役となるのは、夢洲駅と大阪市街地を結ぶ唯一の鉄道アクセス手段となる大阪メトロ中央線です。そしてこの弁天町駅は、各地からの来訪客を運ぶ大阪環状線と中央線との結節点となり、たいへんな混雑が予想されています。
新駅舎&新連絡通路で大変化!
もし、万博会場を目指す来訪客が、乗り換えに迷いやすく、かつ手狭な弁天町駅南口に集中すると、大きなボトルネックとなるのは確実です。そこでJR西日本と大阪メトロは、大阪万博に合わせ、駅の改良工事を進めました。
JR西日本は、現在南北に改札口があるJR弁天町駅のほぼ中央に新たな駅舎を整備し、1Fレベルに中央北口、中央南口改札を設けます。そして大阪環状線内回りホーム、外回りホームと1Fをエスカレーターで直結し、改札内で相互の移動を可能にします。
またJR西日本と大阪メトロは共同で、大阪環状線内回りホームと中央線改札階を直結する連絡通路を整備し、JR西日本はこの連絡通路に接続する「内回り口改札」を設置します。
これらの工事により、大阪環状線内回りから中央線改札口へは上下方向の移動が不要となり、格段にスムーズになります。外回りからも、いったんエスカレーターで新駅舎の1Fに下り、そこから上りのエスカレーターで内回り改札付近に上がるという導線が誕生し、混雑の緩和に資することになります。
この新駅舎と連絡通路は3月1日(土)に使用が開始されます。
また、大阪環状線ホームの両端に位置する現在の改札口(南改札口、北改札口)については、万博終了までは多くの乗り換え需要に対応するため継続して設置するものの、会期終了後は閉鎖するとしています。つまり現状のJR駅から中央線の駅までの「下りて上がって、また上がる」という乗り換えルートは、万博終了後に見納めとなるようです。
現在のJR弁天町駅は、南北にある昭和を感じさせる既存駅舎と、その中央に作られた最新の意匠を持つ新駅舎が同居するという、奇妙なコントラストを見せています。また南口側の駅前広場にあるロータリー付近からは、高架の大阪環状線の上をまたいで走る中央線との位置関係が一目でわかります。
万博へ向かう際に弁天町駅で乗り換えるときは、いったん駅の外に出て、会期中のみ目にすることができる「過去と現在の駅舎の共存」を味わってみてはいかがでしょうか。