前から見ればトラック、後ろから見れば「ハイエース」という不思議なルックスの商用車がトヨタ「ダイナルートバン」です。なぜわざわざ、2つのクルマを“合体”させたのでしょうか。実は細かなニーズに応える絶妙な提案でもありました。
「ダイナ」のフロントと「ハイエース」のリアを大胆にも合体
街中を走っていると、ときどき見かける頭デッカチの不思議なバン。前から見ればトラックだし、後ろから見ればまるでハイエース。違和感はあるものの、そのヘビーデューティな感じがカッコ良くさえ感じます。オールペンでカーキ色やベージュにでも塗り替えれば、オシャレなアウトドア仕様車にもなりそうな印象です。
この不思議なクルマは「ダイナルートバン」というモデルで、まさにフロント部分はトラックの「ダイナ」、リア部分は「ハイエース」を流用したもので、この2つを繋ぎ合わせたことで「頭デッカチ」になっているというわけです。 しかし、ここで素朴な疑問も浮かびます。この「頭デッカチ」の「ダイナルートバン」は一体「何用車」なのかということ。 荷物を積んで運ぶのであれば、「ハイエース」でも十分でしょうし、トラックとしての機能を求めるのなら普通の「ダイナ」で良いでしょう。 なぜ、「ダイナ」と「ハイエース」をわざわざ合体させる必要があったのでしょうか。その理由はさらなる最大積載量と重厚さのニーズに加え、「囲って運びたい」という架装ニーズへ対応するためでした。
「ハイエースじゃちょっと足りない」からだよ!!
一般的な「ハイエース」の最大積載量は約1トン前後。これだけでも十分のようにも感じますが、状況によってはこれ以上の重さのものを運ぶ場合もあります。そうなると「ハイエース」ではこと足らず、運搬回数を増やすなどの対応を強いられます。 そういったニーズに呼応し、特にシャシーや足回りが堅牢な「ダイナ」をベースにして開発されたのが「ダイナルートバン」です。最大積載量約1.2トンから2トンのタイプがあり、特に2トン系は「ハイエース」よりもはるかに重い積載を実現させるとあり、一定の支持がありました。 また、荷台むき出しのトラックと違い「ハイエース」のリアを合体させ架装したことで、“できるだけ人の目に触れさせない大切なもの”を運ぶニーズにも適しており、現金輸送車、消防車、警察関係車両にも多く採用された超実用派モデルでもありました。 しかし、この「ダイナルートバン」のうち最大積載量2トン系モデルは2021年に生産終了。現在は1.2~1.25モデルのみとなっています。廃止となった理由は、「ダイナ」に搭載されていた小型エンジンが日野自動車によるOEM生産で、同社の認定不正問題を受け、「ダイナルートバン」も出荷停止の事態となり、結果的に2トン系モデルの生産終了に至ったというわけです。
現状では1.2~1.25モデルが新車販売されていますが、こうなると「ハイエース」の最大積載量とそう変わらず「ダイナルートバン」の必要性が少し薄まりつつあるようにも感じます。 しかし、この独特のルックスと「ハイエース」以上の堅牢性を実現する「ダイナルートバン」。筆者個人的には、この「頭デッカチのちょっと変なルックス」がたまらなく惹かれるところで、このまま姿を消さないことを密かに祈っています。