ロシア空軍の「大損失」短期間かつ一方的にやられたワケとは? しかしウクライナ“明日は我が身”になりかねない?

ロシア空軍の損失が、ここにきてウナギ上りに増えています。実はその裏には、地上での大攻勢が大きく影響していたとか。ただ、この損失増加は、ウクライナ空軍にとっても他人事ではなさそうです。

わずか2週間で「切札」的存在の1割を喪失

 ロシアによるウクライナ侵攻開始からちょうど2年を迎えた2024年2月は、ロシア空軍にとってこの戦争中、最も苦しい期間であったと言えるでしょう。 ウクライナ空軍は、2月17日から3月2日までの約2週間、敵であるロシア空軍の主力戦闘機や空中早期警戒機を地対空ミサイルによって連日撃墜しており、その合計損失数はスホーイSu-34戦闘爆撃機12機、スホーイSu-35戦闘機2機、イリューシンA-50空中早期警戒機1機の計15機にも達しました。 とりわけ損失が著しいのはSu-34です。同機は高価格ですが、優れたセンサー類や誘導爆弾運用能力を持った対地攻撃の中核を担う大型戦闘爆撃機であり、ロシア空軍も約100機しか保有していません。言うなれば「とっておきの切札」的な存在ですが、ロシアは今後も長期戦が予想されるにもかかわらず、わずか半月でその1割以上を失ったことになります。

 これまでロシア空軍は、ウクライナの地対空ミサイルを中心とした防空態勢を撃滅できなかったことから、航空優勢、すなわち制空権の確保ができず、結果、ほとんど活動せずに戦力を温存する方針でした。それなのに、なぜ突然このような大打撃を被ってしまったのでしょうか。 その理由は、ウクライナ東部の要衝、アウディーイウカを巡る地上戦においてロシア陸軍が勝利を収めたことにあるようです。

濃密な地対空ミサイル網がロシア空軍を阻止

 ロシア陸軍は、ウクライナ陸軍をアウディーイウカから駆逐することに成功しました。その結果、ウクライナ陸軍は撤退に入りますが、それを追撃し戦果を拡張するために、ロシア側は航空優勢を確保していないにもかかわらず、自国空軍が著しく消耗することを覚悟のうえで、大規模な航空作戦を実施したものと推測されます。 かくして、「肉を切らせて骨を断つ」かのようなロシア軍の作戦は、予想どおりウクライナ空軍の猛烈な反撃に遭い、大損害を出す結果となりました。前述したように、ロシア側はアウディーイウカの占領を成功させていますが、この作戦が最終的に「吉」と出たのかどうかは不明です。 少なくとも、3月2日を最後にウクライナ軍発表のSu-34撃墜はなくなったことから、ロシア空軍の作戦は終結したものと考えられます。

 Su-34に被害が集中した原因は、ロシア側の「UMPK滑空爆弾」の多用にあるのだとか。UMPKは、既存の「FAB-500」500kg自由落下爆弾などに取り付けるグライダーキットです。推定滑空比は8:1。すなわち高度1万mから投下した場合、飛距離(射程)80kmを得ることができます。これにより、地対空ミサイルの射程外から攻撃を加えることが可能で、かつ誘導化することで効率よく目標を破壊することが可能です。 一方、ウクライナ軍には、従来運用していたS-300や、欧米諸国から供与された「パトリオット」といった長射程の地対空ミサイルが配備されています。これらはUMPKと比べて、倍近くもの射程を誇ります。

F-16&滑空爆弾の運用開始でウクライナ空軍も危うい

 S-300や「パトリオット」を避けるには低空飛行が有効であるものの、UMPKはグライダーであるため低高度から投下すると飛距離を稼ぐことができません。つまりUMPKの飛距離を伸ばそうと、高高度を飛行した場合は長距離地対空ミサイルに狙われ、それを避けるために低空飛行すると比較的射程の短いその他の地対空ミサイルの射程圏内に入ってしまうのです。 こうした事情によってロシア空軍はSu-34を中心に大打撃を受けてしまったと筆者(関 賢太郎:航空軍事評論家)は考えます。

 一方、ウクライナ側にも今後、アメリカ製の高性能戦闘機F-16「ファイティングファルコン」が引き渡される予定です。この機体は、前出のUMPKとほとんど同じ性能を持ったアメリカ製の滑空爆弾「JDAM-ER」を運用可能で、いざ配備されたらおそらくウクライナ空軍は運用を開始するでしょう。 UMPKやJDAM-ERのような滑空爆弾は安価で射程を伸ばせる使いやすい兵器ですが、極めて濃密な地対空ミサイル防空網によって守られた地上目標を攻撃するには、あまり向いていません。 もし今後、ロシアとウクライナによる滑空爆弾の投げ合いのような展開になった場合、ウクライナ空軍のF-16も、Su-34と同じように消耗することは避けられないかもしれないでしょう。

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