日向市の挑戦。事業者や起業したい人を結果が出るまで支援する、ひむか-Bizとは

日向市のあらゆる中小企業や自営業者、新しく商売を始めたい人を徹底的にサポートして、売り上げ増や新商品開発を実現させる、ひむか-Biz。全国公募によりそのセンター長に選ばれたのが、長友慎治さんです。東京でのタウン誌編集長やコンテンツ制作会社の社長、広告会社勤務などを経て、いま日向市をどのように活性化させているのか、お話を伺いました。

お金をかけずに、売り上げをつくるアイデア

日向市にある小さな仕出し屋「味の大作」さん。

創業以来42年、ご夫婦で商売を営んでいましたが、旦那さんが倒れてしまい、奥さん1人でお店を切り盛りされていました。ただ、資金繰りが厳しく、商品は売れても利益をあげられない、どうしたらいいのかと、切羽詰まった様子で相談にいらっしゃったのです。

一刻も早く売上が回復するようなアドバイスをしないと、気持ちが折れてしまいそうだと感じ、まずは1時間じっくりと話を聞きました。味の大作さんが販売しているのは、仕出し弁当やお惣菜。その中で、「一番自信があるのは何?」と聞くと「みんな餃子を美味しいと食べてくれるし、私も一番自信がある」とおっしゃいます。

ただ、現状は焼いた餃子をお弁当に入れたり、冷凍食品として販売したりしていたので、「42年もやられている仕出し屋さんの自信作だから、その場で焼きたて熱々を食べられるようにしたらどうだろう?」と、イートインコーナーを作る提案をしたのです。

店内に作った5席のイートインコーナー

その足で一緒にお店に行くと、長テーブルに荷物を置いているだけの空きスペースがありました。そこに椅子を並べたら、イートインコーナーになります。「ここで焼きたての餃子を食べてもらいましょう」と話すと、希望が見えたようで1時間前とは違う明るい表情になり、最後は少し涙ぐんでおられました。

それから1ヶ月ほどかけて準備を進め、地元の新聞などにも取り上げてもらってイートインコーナーを本格始動。お金をかけることなく、新たな価値を提供できるようになった味の大作さんとは、以降定期的な相談を重ねながら、より売上を伸ばすべく挑戦を続けている最中です。

自慢の餃子定食500円

これが、私の仕事です。日向市で課題を抱える事業者さんの強みをとことん聞き出し、どうすれば課題が解決するかについて知恵を絞り、具体的な手法を提案する。そして、きちんと成果が出るまで伴走しています。

中小企業と向き合う、ひむか-Bizセンター長に就任

私がセンター長を務める「ひむか-Biz」は、2017年に開設した中小企業相談所です。静岡県にある「f-Biz」をお手本に、中小企業を支援するのがミッション。地域の企業と深く関わり、課題解決のための具体的なアイデアと手法を提案することで企業を再生、もしくは起業をサポートし、地域を活性化させる一翼を担っています。

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私はセンター長を拝命する前まで、ずっと東京で働いていました。ただ、40歳を目前に、「仕事はおもしろいし、やりがいはあるけれど、このまま東京で仕事を続けるべきなのか、それとも違う場所で新しい何かを始めた方がいいのだろうか」と、漠然とですがモヤモヤした気持ちを持っていました。

老後は、地元・宮崎県に帰ろうとは思っていましたが「一流になるまで東京で仕事をしよう」と、どこか青臭い考えを持っていたんですよね。それなのに「宮崎に帰ろう」と決断したきっかけになったのは、30代を中心とした若い人が宮崎市や日南市を盛り上げているという情報がSNSなどで毎日のように流れてきたこと。

それも、みんな僕より若かったんです。正直、みんなの頑張りや活躍する姿をうらやましく思い、「老後に帰ったのでは意味がない」と、当時の上司に辞意を伝えました。

そうして、自分のアンテナが宮崎に向いた瞬間、飛び込んで来たのが「ひむか-Biz」のセンター長公募の情報でした。調べてみると、中小企業を支援し、地域を活性化させる仕事だとわかりました。もともと、宮崎に戻ったら地元のシャッター商店街に賑わいを創出するための事業を始めようと思っていたので、即応募しましたね。

応募者は110人以上。プレゼン等の審査を経て僕を選んでいただき、2016年10月、ひむか-Bizセンター長に就任することになりました。

少しでも困ったら相談したくなる存在へ

それから3ヶ月後の2017年1月に、ひむか-Bizはオープン。最初の相談者さんは主婦の方でした。その方は、子育て中にずっと描き溜めていた絵本を商品にしたいけど、どうすればいいのかわからないと、相談にいらっしゃいました。

ファイルに入った手描きの紙を見せてもらうと、子どもだけでなく大人にも読んで欲しいポジティブな内容で、ストーリーには日向の民話や伝統芸能、観光名所などがふんだんに絡めてありました。

ファイルに入った手描きの絵本

そこで早速、出版社に話を持っていったのですが、「自費出版なら可能」と言われました。しかしそれでは金銭的負担が大きすぎます。絵本は日向の民話などが紹介されているので、ふるさと納税のお礼の品にできないかと考え、市役所に相談すると、「ぜひお礼の品として出しましょう」と快諾いただきました。

「日向市のふるさと納税の返礼品になる」という前提であれば、売り上げの見込みも立つ。その方は自費出版に踏み切ることができ、夢を一つ叶えられました。次は絵本のオリジナルキャラクターをグッズ展開すべく準備を進めているところです。

絵本の1ページ

絵本作者の松葉さん

また、別の相談者さんの奥さんから言われたことで嬉しかったのは、「長友さんに相談し始めてから主人が生き生きしている」という言葉。その相談者さんは創作料理の居酒屋さんで、美味しい創作料理をつくるものの、なかなか売上に反映されなかったんですよね。話を聞き、実際に食べさせてもらってわかったのは、考案した料理の良さが伝わりにくい名前をつけていたことでした。

味をイメージできる名前を一緒に考えてメニューに反映すると、売り上げは目に見えて変わっていきました。見せ方を変えるだけで結果も変わることを体験したご主人からは、やる気や意欲が湧き上がるのをひしひしと感じることができました。

創作料理居酒屋の店主と

日向市から宮崎県全体を元気にしたい

ひむか-Bizは開設から約半年の間で、相談件数は累計約800件、リピート率は約70%、多い方で30回近く相談にいらっしゃるという、日向市の事業者さんにとって無くてはならない存在に近づきつつあるのかなと感じています。

それだけたくさんの人が「売り上げを上げたい」「新しいことを始めたい」と思っているのは、本当にすごい。日向市の底力そのものだと思います。

たくさんの方が相談にいらっしゃっています

ただ、地域の人たちは、真面目で正直で本当にいい仕事をするのですが、“正直者が馬鹿を見る”ような状況が多い気もします。たとえば、手間暇かけて作った20品目のお弁当でも、値段は450円。東京なら、倍以上の価格で販売されているような内容なのに、「周りがみんな安いのに自分だけ高くできない」と、値段に商品価値を反映できないんですよね。

だけど、これが続いてしまうと、事業者の売り上げも給料も上がらず、地元の消費も上向かずと、誰も得しないデフレ経済から脱出できません。

地域外に販路を持つと、値段をご近所と合わせる必要がないとわかり、適正価格で販売できるようになりますが、販路開拓は簡単なことではありません。そんなとき、力強いツールとなったのがふるさと納税でした。

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商品をふるさと納税のお礼の品にして地域外の人とつながる経験を積むと、「周りと値段を合わせる必要がないんだ」と気づいてもらえるようになったのです。これを一つのきっかけに、地方の人が価値ある事業でちゃんと稼げるよう支援していきたいです。

ひむか-Bizと日向市、すべての事業者さんの挑戦は、まだ始まったばかり。この場所を行列のできる相談所にしていくことで、来た人同士がつながって新しいビジネスが次々と生まれる日向市にしたい。日向市で元気に稼ぐ人を増やし、日向市から宮崎県全体を活性化させたいと思っています。

(取材・文:田村朋美、写真:増山友寛)

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