1年間で11社のITベンチャーが日南に! 若い世代の流出が止まり、転入が増えたアツいまち

2013年、当時33歳だった崎田恭平氏が市長に就任し、「日本一組みやすい自治体」として民間企業とのコラボに積極的な宮崎県日南市。行政にも民間のマーケティング手法を取り入れるべきという市長の考えに、白羽の矢が立ったのが田鹿倫基さんです。マーケティング専門官として、市外の企業とのコラボや地場企業との取り組み、IT企業の誘致など活動を続けたことで、日南市は人口動態が変化し始めています。具体的な活動について、田鹿さんにお話を伺いました。

日南市のマーケティング専門官に

僕は、リクルートの事業開発室で2年、外資のWebマーケティング会社で北京事務所の開設に3年携わったあと、2013年に日南市にやってきました。きっかけは、崎田市長が公約で掲げていた「マーケティング畑の民間人雇用」で、お声がけいただいたこと。崎田市長とは東京で働いていたときに面識があって、「やってみないか」とお話をいただきました。

ただ、当時僕は28歳。あと数年は都心の企業で経験を積んだ方がいいのではないかとも思いましたが、将来的にやりたかったことなので、覚悟を決めて日南市に移住しました。

僕のミッションは、市外からの外需を獲得して雇用を生むことと、日南市全体のブランディングです。日南に来て最初に持った印象は、観光や食など地域資源がかなり豊かなのに、それを生かすリソースを持ち合わせていないことでした。そこで、「日南のマーケティング専門官」として最初の3年間はそれらを生かすためのパートナー企業探しに注力しました。

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打ち出したのは、日本一組みやすい自治体

民間企業が日南市と組むことにメリットを感じてもらうために掲げたのは、「日本一組みやすい自治体」です。他の自治体には断られそうなことも、日南とならスムーズに実現できそうだ、こんなことまで自治体がやってくれるんだと感じてもらうための企画を実行しました。

その一つが、「すごい草野球」という“おバカ企画”。日南はプロ野球のキャンプ地なので大規模な野球場があるのですが、使っていない日も多いので、プロ野球の本番と同じような草野球をしたら面白いのではないかと考えました。

「すごい草野球」広告の一部

始球式は市長が、試合前の花束贈呈は日南市の観光レディが、ウグイス嬢もプロにお願いし、登場の音楽も作りました。試合前の練習は元広島カープのピッチャーにバッティングピッチャーをしてもらい、審判もプロ野球で活躍されている方を4人呼ぶなど、かなり大掛かりな企画。しかも、プレイするのは宮崎市の草野球チームです。

この様子をメディアで発信すると、「日南ってちょっとおもしろい」と噂が広まり、全国の企業が持ち込み企画をもってきてくれるようになったのです。以来、さまざまな企業と組んで、PRや観光誘致につながる活動を展開しました。

1年間で11社のIT企業を誘致

2016年から注力しているのはIT企業の誘致。東京などの企業が地方にサテライトオフィスを持とうとしたときネックになるのが、縦割り行政であるが故の高いコミュニケーションコストです。日南市はその縦割り行政を横串でサポート。地方進出の相談から物件選び、行政手続き、採用活動やPR活動などを一気通貫で伴奏し、「日本一組みやすい自治体」を体現しています。

記念すべき誘致1社目は、新宿に本社を構えるIT企業のPORTさん。油津商店街のアーケード内にオシャレなサテライトオフィスを構えています。最初は、地域に興味がなさそうな雰囲気を感じたのですが(笑)、お神輿の担ぎ手が足りなくて、油津地域からお祭りがなくなりそうになったとき担ぎ手になってくれたり、商店街の人たちと定期的に飲み会を開いて交流していたり、すごく地域に溶け込んで貢献してくれています。

お神輿を担ぐPORT社員

さらに、中学・高校・大学の授業で講師もしてくれるようになり、地元の実業系高校で「IT企業のPORTに就職したい!」という声が殺到しました。その結果、10人の採用枠に360人を超える応募があり、それを知った東京の企業が日南に来てくれるケースも増えました。

PORTさんを皮切りに、1年間で誘致した企業は11社。それも、油津商店街周辺に9社を誘致したので、IT企業で働く若い人たちが日常的に商店街に通勤してランチをして、コーヒーを買って、飲み会をするという、若い人が集まる商店街に変わりました。

若い人が集まったことで商店街には保育園も新設され、同じ空間で子どもを預けられて働けるように。おかげで油津商店街の平均年齢はぐっと下がりましたし、子どもたちが増えたことで、商店街に笑い声が響き、雰囲気は断然良くなりました。

商店街にオフィスを構えるPORTさん

地場企業が給与水準をあげ、若者が日南に残るように

これまで日南は若い人が流出し続けるまちでしたが、2016年は20年以上ぶりに人口に占める20代30代の割合が増加。20代の流出が止まり、30代の転入が増加するなど、これまでの人口動態では見られなかった変化が起こりつつあります。5万人のまちで人口動態に影響を与えるのは難しいと思っていましたが、IT企業が11社も日南に来てくれたことで風向きが変わりました。

人口動態に影響を与えたのは、外から来た企業だけによるものではありません。もちろん、誘致によって80人くらいの雇用が生まれていますが、大きかったのは、周りの地場企業が採用活動に積極的になったこと。給与水準の高いIT企業が来たことで、人材採用に対する考え方を大きく変えてくれました。

最初は、いくつかの企業から「うちの会社の採用が厳しくなるから、これ以上誘致しないでほしい」とお叱りを受けることもありました。それでも、人を採用するための施策を一緒に考えて実行していくことで、ハローワークや高校に求人を出してただ待っているのではなく、自分たちが主体的に採用活動をしないと採用できない、と気がついてくれたのです。

その結果、給与水準を上げてくれる企業が増え、「15万円の給与じゃ働けない」と外に出て行った若者が、「20万円なら残ってもいいかな」と残ってくれるように。企業誘致が呼び水になり、流出していた若者が日南市にとどまり始めるという大きな変化が起こりました。

子育て支援センター

次は、人口ピラミッドの歪みを是正する

2013年からの4年間で、地場企業との取り組みや誘致によって雇用創出の良いサイクルが回り始めた日南市。次の4年は、「人口ピラミッドの歪みを是正していく」のが僕の新しいミッションです。

地域のあらゆる問題は人口が減ることで発生するのではなく、年齢別の人口バランスが崩れることで起こります。人口ピラミッドがきれいなドラム缶になっていたら、地域経済が維持され、伝統や文化が次世代に継承されていきます。それにより、地域の持続可能性が高まるのです。

日南は20〜30代の人口と出生数が少なくなっていますが、日南で働くこと・生きていくことに夢を持てたら若い世代が地元にとどまったり、戻ってきたりしてくれるはず。そして、子供を産み育てやすい環境を整えることで、出生数の増加にもつながると信じています。

人口バランスを整えるという前例のない取り組みですが、次の4年間でまちの景色を変えたい。引き続き、企業誘致や平均所得の底上げをしながら、世界からも注目される日南市にしたい。実は、シリコンバレーに拠点を持つIT企業が、日南に日本法人を設立してくれました。東京でも福岡でもなく、日南にです。風景がシリコンバレーに似ていて、チャレンジする場所として日南には追い風が吹いていると、感じていただけたようです。

まだまだ、日南の人口動態も少しの変化ですし、チャレンジは始まったばかり。これからも、地に足つけてやるべきことを着実に実施していきたいと思います。
(取材・文:田村朋美、写真:増山友寛)

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