まちを丸ごとブランド化! 山形県朝日町は、行政と町民が一緒になって10年先の未来をつくっています

山形県の中央にほぼ位置する、りんごとワインの里・朝日町。袋をかぶせずに栽培する「無袋ふじ」発祥の地であり、また、朝日町ワインは伊勢志摩サミットでも振る舞われました。どちらも、長い歴史の中での地道な努力の積み重ねと、新しいことへのチャレンジ精神旺盛な町民性があったからこそ。そんな朝日町の現在の取り組みについて、鈴木浩幸朝日町長にお話を伺いました。

町民ワークショップで町の発展計画を考える

人口約7200人の小さなまち、山形県朝日町。人口が少ないため、行政と地域の距離がとても近く、産業もまちづくりも、みんなで一緒に取り組んでいこうという考えが、ずっと昔からありました。自分たちのまちの10年先は、自分たちでつくる。行政が勝手につくるのではなく、みんなで考えて未来につなげていく。

その考えのもと、平成30年から39年までのまちづくりの指標となる「第6次朝日町総合発展計画」策定のために、全6回の「町民ワークショップ」を開催しています。

町民ワークショップ

これは、行政が考えた計画に対して町民からの意見を聞く場でも、町民からの要望を行政が聞く場でもありません。町民も行政も一緒になって、自分たちのまちをつくっていく場。老若男女、業界も立場も違う町民が集まり、未来のために今何をすべきかをみんなで考え、それを計画に盛り込もうとしている最中です。

桃色ウサヒを使った地域振興

そんなまちに新しい風が入ってきたのは、2008年のこと。当時、大学院2年生だった佐藤恒平くんが、「着ぐるみを使った地域振興を研究したい」と朝日町にやってきました。着ぐるみと言っても可愛い「ゆるキャラ」ではなく、その辺に売っているような、お世辞でも可愛いとは言えないピンクのウサギの着ぐるみです(笑)。

「これは面白い、なんだかいいな」と思いました。思わず、「私は町長だけど、ウサヒの応援団長だ」とメールを送ったほど。しかし1年が経ち、大学院を卒業した恒平くんは関東の会社へ就職してしまいました。

鈴木浩幸朝日町長

桃色ウサヒの地域づくりは、今までの取り組みとは全く違っていました。全国にたくさんある「ゆるキャラ」のように可愛いキャラクターではないので、その頼りなさもあってか、町民の心にスッと入っていたんですよね。だからもう一度、恒平くんの考え方で他にない地域づくりをして欲しいと役場内で話が持ち上がりました。

そこで、「就職して1年くらいで申し訳ないけれど、ぜひもう一度朝日町で恒平くんの希望に沿った地域振興の研究をして欲しい」と連絡を取ったんです。本人は悩んだと思いますが、「新しい着ぐるみを買ってあげる」という言葉で、再び朝日町に来ることを決意してくれました(笑)。

佐藤恒平さんと桃色ウサヒ

桃色ウサヒは、自分から何かをするのではなく、町民のアイデアで動くという町民主導の地域振興をしてくれています。アイデアは、田植えをさせたい、リンゴの収穫をさせたい、装飾がなさすぎるからポシェットを持たせたいなど、なんでもアリです。その取り組みがメディアに取り上げられるたびに、町民の自信と誇りにつながっています。

それに、桃色ウサヒが来たことで、真面目で誠実な町民性に、楽しさや笑いの要素が加わったと思うんですよね。ウサヒを通じたコミュニケーションにより、今まで関わりを持っていなかった人たちがつながるようになったり、ウサヒグッズをつくって販売したり。住んでいるまちを好きになり、自分の仕事も楽しく感じる、そういう地域になりつつあると思っています。

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まち全体をブランド化

そんな朝日町も、他の地方と同じように、人口減少と少子高齢化という深刻な課題を抱えています。子どもの数が減り、地域の活力が失われるというのは、10年後20年後の不安材料です。必要なのは、自分たちのまちの将来に希望を持ち、未来を見据えた取り組みをする人を一人でも増やしていくこと。

そこで、朝日町に「ヒト・モノ・カネ・情報」を引きつける力を備えるための「朝日町ブランド化戦略」を2014年から進めています。東京で中小企業のブランド戦略を専門とする村尾隆介さんを迎え、2014年からの3年間は、住民票を朝日町に移していただいてプロジェクトを推進してきました。

あさひまちブランド大学の様子

村尾さんには、「あさひまちブランド大学」という学びの場をつくっていただき、隔週でブランディングを学ぶほか、著名な経営者などにも全国から駆けつけていただき、講師として登壇してもらいました。町民はもちろん、県外からも毎回参加する人が多数いて、受講した総学生数は5000人を超えました。人口約7200人のまちですから、すごいことです。

ひとつの成果としては、まちのあらゆるロゴや看板、役場や農家のユニフォーム、ステッカー、ふるさと納税で使用するパッケージ、イベントなど、さまざまなものが刷新され、デザインが統一されました。中学生が道の駅「りんごの森」をプロデュースし、それを企業経営者がサポートするなど、明らかにまちに活気が生まれています。

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さらに、自らのブランディングに取り組んだことで、前年比の売り上げが180%を超えた商店、ニュースレターを刷新したことでファンを増やした農家、さらに大手スポーツメーカーである「ミズノ株式会社」からのお声がけにより、朝日町とのコラボによる数々のアパレルやイベントも誕生したのです。

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まちが一丸となってのブランド化への取り組みは、多くのマスコミに取り上げられたため、それも町民の方の自信と誇りにつながりましたね。その結果、驚いたのは、中学生の8割くらいが「将来朝日町に戻ってきたい」「朝日町のためになる仕事をしたい」と言ってくれたこと。中学校で実施したこのアンケート結果に、校長先生がとても喜んでおられました。

朝日町は、10年後がすごく楽しみなまちになったと思います。子どもたちが大人になったとき、どんな風に盛り上げてくれているのか、今から楽しみです。

まちを元気にする「ふるさと納税」

朝日町を元気にしている要素はもう一つ、それはふるさと納税です。全国に朝日町の農産物やワインを発信でき、知らなかった人に伝えられたことは、大きな価値。地域や産業の活性化と町民の前向きさにつながっているので、これからも適切に活用したいと思っています。

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最近は、お礼の品ばかりが注目されがちですが、ふるさと納税で寄附をするという行動は、社会貢献に直結しているんですよね。まちは、いただいた寄附を活用することで、抱えている課題を少しずつ解決していける。

私たちは、その使い道でどう変わったのかを伝えることが大切だと考えているので、「ふるさと通信」を年2回発行することで、寄附者の方に「寄附の使い道」をご報告しています。

統一されたオリジナルパッケージデザイン

桃色ウサヒやブランド戦略、町民ワークショップ、ふるさと納税など、さまざまな取り組みを進める朝日町。今後も選ばれるまちへと進化していくことで、たくさんの朝日町ファンをつくっていきたいと思っています。
(取材・文:田村朋美、写真:増山友寛)

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