どん底から這い上がれ!なぜ夕張は「RESTART」できるのか。鈴木直道市長が語る、未来の話

財政破綻から10年。財政再生計画の見直しによって、財政再建一辺倒から地域再生との両立へ舵を切った夕張市。ここには、すべてのマイナスをプラスに変える力と、歴史的背景から市民に根付く協力体制、そして、実直にやりぬく鈴木直道市長という、夕張ならではの強さがあります。印象付けられたイメージを払拭し、未来へ向かう夕張について、市長にお話を伺いました。

一山一家の精神で、日本一の困難に立ち向かう

財政再建団体(現在は財政再生団体)に移行した日を破綻と捉えると、夕張は破綻して丸10年が過ぎ、これまで本当に言葉では言い表せない苦労がありました。今まで使っていた施設が使えなくなる、サービスの対価が上がる、人がいなくなるという、分かりやすい変化だけでなく、自分たちのふるさとが「財政破綻したまち」という言葉で10年間も言われ続けてきたのです。これはまちの誇りを削ぐ言葉だったと思います。

夕張はかつて炭鉱で栄えた地域ですが、エネルギー転換で街の基幹産業が失われて、大きな都市構造の転換が求められました。それをなんとか乗り越えたと思ったら、財政破綻です。一つの困難を乗り越えたまちはたくさんあるかもしれませんが、夕張は一つの山を乗り越えたら、もう一つの山を乗り越えないといけなくなりました。

しかも、最後に閉山した炭鉱は1990年。そして、財政破綻は2007年。同じ人がまちの大きな変わり目に2回も立ち会っているのです。

夕張市長

これは何も市民が悪いのではありません。しかし、「財政破綻したまち」と連日テレビで放映されたことにより、市民は未来への希望や、プライドを失ったと思います。夕張のいいところを伝えようと思っても、圧倒的に大きな世論に押しつぶされていた。

わかりやすいところで言うと、財政破綻を表すのに鉄板として使われていたのは、シャッター通りを歩く高齢者の後ろ姿と、廃屋にいる野良猫でした。この2つを見せて「財政破綻した夕張市」の話をすれば、誰もが夕張は寂しく元気がないという印象を持つのは必然でしょう。

それでも夕張にはコミュニティの強さがあります。炭鉱の仕事は死と隣り合わせの危険な仕事で、炭鉱でガスが出たらみんなで逃げないといけないし、万が一仲間が亡くなったらその子どもや家族をみんなで見守る必要がありました。

そうやって、お互いに命を預けて仕事をしていたので、困ったことがあれば助け合って生きる文化、同じ炭鉱で働くすべての鉱員とその家族は、一つの大きな家族、「一山一家」という考え方が根付いているのです。

先日、高校生を交えて戦略を考えたときも、みんなから一山一家という言葉が出たんですよね。もう山はないけど、まち一つが山であり、まち一つが家族だ、と。これが夕張の特長であり強さです。

夕張市

人口が半分になっても、幸福度を追求したい

26歳で夕張に来て早10年。今までは、真っ暗闇で出口もわからないトンネルを、ただひたすら走り続けてきました。そこに今、財政再生計画の見直しによって実質的に再生団体ではなくなる、という光が差してきた。ここからが勝負で、みんなの力が試されます。

よく極論で、「夕張を残す必要があるのか」という意見をもらうことがあります。一定の人口を割ったら、全員強制的に違う街に引っ越すという案です。でもこれを本当に実現しようと思ったら、憲法も関連法律も変える必要がありますし、それを実現するために選挙で国民からの絶大なる支持を得る必要もある。

果たしてそんなことがやれるのか。私は難しいことだと思うし、世界の陸地の0.25%しかない小さな島国の中で小さく移動するのではなく、どうすればそこに住む人の気持ちに寄り添えるかについて議論をしたほうがよっぽど前向きだと考えます。

夕張メロンは、夕張じゃないと作れません。農家は、市がどうなろうと、この地に根を張って生きる覚悟を持っている。思考停止に陥らず、どうすればいいかを前向きに考えたい。

今後20年で、夕張は人口が半分になると言われていますが、半分になっても4000人の人生があります。その方たちの生活の質を上げ、幸福度を高めていくにはどうすればいいか。どうやってみんなで協力しながら生きていくかを考えるのが、行政や政治家の仕事。

人口減少社会では、よりみんなが幸せに生活するために、現実的な処方箋を考える必要があると思っています。私は夕張をなくすのではなく、持続可能な街にしたい。

夕張メロン農家

10年間止まっていた時計の針を動かす

353億円を抱えて破綻し、残る返済額は2017年3月末時点で237億円。2026年まで毎年26億円を返済する計画は変わりませんが、まちを持続させるには、財政再建と同時に地域再生が必要です。

そこで、財政再生計画を見直し、2029年までの13年間で、新規事業を含む「地域再生」に138億円を投資する、新たな計画を実行します。時計の針が10年間も止まっていた夕張は、これから大きく変わります。

この財源の柱となったのは「ふるさと納税」です。個人の方からの寄附に加え、企業版ふるさと納税で、ニトリホールディングスから5億円、ツムラから3億円の寄附が決定しました。

この財源を充てて、平成31年度には複合施設を、32年度には認定こども園を、34年度には診療所を開設するなど、矢継ぎ早に政策を打っていきます。また、炭層メタンガスの採掘や若者や子育て世代への投資など、10年間ずっとやりたかった、みんなが待ち望んだことを形にし、景色を変えていきたい。

財政再生計画は、市民、議会、行政、そして企業が一丸となって進めます。認定こども園は、企業と一緒に小学校跡地に建設予定。園児は広い校庭をどれだけ走っても騒いでも大丈夫ですし、夕張らしい里山のこども園を作れば、「通わせたい」という他県の親御さんが出てくるかもしれません。

複合施設は、企画段階から市民の方々に参加してもらっています。たとえば、高齢者の文化団体は芸術発表する場を、子育て世代のお母さんは子どもたちが勉強できる場、高校生はオシャレなカフェが欲しいなど、各地への視察をしながら、みんなでディスカッションして進めている最中です。

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すべてのマイナスはプラスに変わる

計画上、再生団体ではなくなりますが、計画は計画でしかありません。これを実行するのは、10年間でボロボロになった市民。みんなでもう一回立ち上がり、数年間でまちの景色を変えないといけません。

裸一つになった夕張がどう「RE START」するのかを見てください。全国の人を巻き込みながら、できるだけ早く再生し、成功体験を多くの人と共有したい。そして、これからの挑戦で、人口の半分以上の人に「夕張に残って良かった」と言ってもらえる形を作れたら、自治体経営のあり方のヒントになるはずです。

逆に、これだけ小さなまち、しかもみんなで協力し合って生きる文化が根付いた夕張でさえ、どうにもならないというのが日本の答えであれば、他の地域、ひいては日本全体の再生は難しいでしょう。夕張が置かれている状況は、全国自治体の40年先の未来です。

人口減少や少子高齢化、財政難など、マイナスすぎる要素ですら、どれもポジティブに変更できます。人口減少率は日本一ですが、逆に人口が最も減ったということは、かつて夕張に住んでいて全国に散らばった人が日本で一番多いということ。言い換えれば、全国に夕張ファンがたくさんいるということになります。

高齢化率の高さも、厳しい難局に立ち向かってきた経験豊富な知恵ある人がたくさんいるということですし、少子化も人数が少ないからこそ低投資で実感を得やすい施策ができます。財政難もお金がないから、0円でやりたいことをどう実現させるかという発想になる。

「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」は今年で27回目を迎えましたが、最初は1億円の助成金を使って始めたイベントでした。破綻後、その助成金がなくなってからは、市民が毎年ゼロから6000〜7000万円を寄附等で集めて開催しています。0円でことをなすのが夕張。可能性に満ちた地域です。

ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2017

子どもたちの高校卒業までの人生を背負う

今後、夕張では高校を卒業するまで、子どもがやりたいことに投資し、卒業までの人生を市全体で背負いたいと考えています。そうして育てた子どもたちが、進学によって市外に出て行くのは仕方のないことです。

出て行った子どもたちに「夕張に帰ってきてくれ」「夕張で就職してくれ」というのは我々の都合でしかありません。こんなことを言うと叱られるかもしれませんが、私は東京で就職してもいいと思っています。

子どもたちの夢を叶えるためには「夕張で就職」に縛ってはいけない。だけど、「夕張で育ち、高校までを過ごせたことを感謝している」と言ってくれたら嬉しいし、帰ってきた時はいつでも「おかえり」と迎えたい。子どもの数は少なくても、才能は無限。自分の可能性が開けて、挑戦できる環境を整えてあげたいですね。

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日本で一番おもしろい市へ

今、夕張には見たこともないような変化が生まれています。不可能だと言われていた借金返済も、これまでに約116億円返してきました。地域再生の芽も0円で作ってきた。そして、市の職員の給与を上げて欲しいという声が、市民から上がってくる自治体になりました。

一般的に、職員の給与は安ければ安い方がいいと思われるものですが、この声は職員の頑張りが市民に伝わった証拠。聞いたときは心底うれしかったです。

夕張は、どん底から必ず再生します。一つひとつの成果をきちんと可視化して、全国に伝えて、大成功につなげたいと思っています。お金を持っている人が大金持ちになってもあまり注目されませんが、どん底にいる人が這い上がることでドラマを感じるし、輝くものです(笑)。

私が全国の皆さんに言いたいのは、移住して一緒に地域再生をやって欲しいということではありません。「夕張、ちょっとおもしろいかも」と、少しでも興味を持ってくれたら、ほんの少しだけ関わって欲しい。私たちは、そんな皆さんをトリコにさせるポテンシャルを持っていますから。

RE START! Challenge More!!

(取材・文:田村朋美、写真:増山友寛)

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