JRの手を離れる在来線最長「北陸トンネル」3セクにどう影響? “長大トンネルの移管”すでに事例も

JR北陸本線の「北陸トンネル」が、新幹線開業にともなって第3セクター鉄道へ移管されます。青函トンネルを除きJR在来線で最長の歴史あるトンネルです。今後どうなるのでしょうか。

新幹線開業にともなって第3セクター鉄道へ移管

 2024年3月16日、いよいよ北陸新幹線が敦賀まで延伸開業します。これに伴い特急「サンダーバード」などが疾走する北陸本線の敦賀~金沢間は「並行在来線」としてJR西日本から経営分離され、金沢~大聖寺間は「IRいしかわ鉄道」、大聖寺~敦賀間は福井県などが出資して新設される第3セクター企業「ハピラインふくい」へ移管されます。  その北陸本線の移管区間には、敦賀~南今庄間を抜ける「北陸トンネル」があります。青函トンネルを除くと日本最長の在来線トンネルです。

 新幹線では最長は全長約26.4kmの東北新幹線七戸十和田~新青森間「八甲田トンネル」、続いて約25.8kmのいわて沼宮内~二戸間「岩手一戸トンネル」がありますが、かつてはこれほど長いトンネルを建設することは困難でした。 長らく最長の座にいたのは1931(昭和6)年、上越線土合~土樽間に開通した約9.7kmの「清水トンネル」でしたが、これを31年ぶりに更新したのが1962(昭和37)年に開通した約13.8kmの北陸トンネルでした。 1961年7月31日の朝日新聞には、「日本最長の北陸トンネル誕生 最後の岩盤を爆破 けさ双方で感激の握手」と題して、高揚感あふれる工事現場の様子を伝えており、その後、現在に至るまで在来線の陸上トンネル最長の座を維持しています。

トンネルのあり方を変えた事件

 北陸トンネルは悲しい過去も持っています。まず前兆は1969(昭和43)年12月6日、トンネルを走行中の寝台特急「日本海」の電源車から出火する事故でした。この際は出口付近だったためトンネルから脱出して対応にあたり、幸いけが人は出ませんでしたが、それから3年後の1972(昭和45)年11月6日未明、再び北陸トンネル内で出火事故が起きてしまいました。火元は走行中の急行「きたぐに」の食堂車でした。 近年の長大トンネルは建設に使われた「斜坑」を換気口や非常口へ転用していますが、1960年代に建設された北陸トンネルにはそれが無く、またすでに電化路線だったこともあり、火災を想定した避難設備や消火設備、換気設備がありませんでした。 加えて当時の国鉄の火災対応方針は「出口まで走り抜ける」と「停車して消火」を状況によって判断するという曖昧なもので、長大トンネルの特性を踏まえた方針が示されていませんでした。 こうした中、列車はトンネル内で停車し、乗務員が消火作業に取り掛かりましたが、火勢は強く、対処のしようがありません。照明のほとんど点いていないトンネルの中で、充満した煙にまかれた乗員乗客30人が亡くなる大惨事となったのです。 事故後、トンネル火災に備えた消火器の設置、照明の常時点灯化や無線の整備などが進められましたが、トンネル構造の大規模な変更は困難のため、放水、換気設備は設置されませんでした。建設時の斜坑は2か所あるものの、線路の保守作業等に用いられており、非常口としての機能は持っていません。

歴史的な長大トンネル 3セク移管後はどう維持する?

 このような特殊な環境にあるトンネルの保守を3セクに移管して問題ないのでしょうか。JR西日本によれば「移管からしばらくの間はハピラインふくいへ出向者を派遣し、運営面での支援を行う」ものの、いずれは全てが移管されるそうです。 100年以上使われるトンネルは珍しくないとはいえ、開通から60年が経過した北陸トンネルの保守は相応の手間がかかるのではないでしょうか。JR西日本は「経年やトンネル長などの条件に応じて保守していますが、一般的な日常的な保守と大きく異なるものではありません」と述べており、まだ大規模な修繕が必要な状態ではないようです。 ハピラインふくいにも聞いてみましたが、「北陸トンネルの保守作業は一般的な鉄道トンネルと同じで、特別な作業等はないため、特に負担が大きいということはございません」とのこと。専門的な検査業務については外部に委託する予定と回答しています。 実は、同様の長大トンネルが3セクへ移管された例は、同じく旧北陸本線の区間にすでに存在します。えちごトキめき鉄道の能生~名立駅間にある総延長11.3kmの「頸城トンネル」です。北陸トンネルと同じく1960年代に開通したトンネルですが、2016年の移管以降、特に問題はないようです。適切なメンテナンスさえ行えば案外、長いだけで普通のトンネルということなのかもしれません。

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