「中国には勝てない」の烙印 M1エイブラムスはいつまで世界最強でいられるか アメリカ自身が押したワケ

制式化から40年あまり、改修を繰り返しながら運用され、世界最強とも称されるアメリカのM1エイブラムス戦車に、アップグレード版であるM1E3の開発が発表されました。しかしM1自体が「中国と戦う頃には無力になる」という烙印を押されてしまいます。

改修を繰り返し40年あまり

 アメリカのM1エイブラムス戦車は「世界最強」とも呼ばれ、湾岸戦争やイラク戦争での実績がそれを裏付けています。しかしアメリカの陸軍科学委員会(ASB)が、「M1は2040年までには中国との戦いで無力になる」とするレポートを出しました。これは、強力な中国製戦車や対戦車兵器が出現するというカタログスペック比べのような単純な話ではありません。 M1エイブラムスは1981(昭和56)年に制式化されて以降、改修が繰り返されてきました。2023年現在は2015年式のシステム拡張版、M1A2SEPv3(SEP Version.3)が最新です。陸軍は改修しながら2040年以降まで使い続けると見られます。

 SEPv3の後SEPv4(バージョン4)の開発にも着手していましたが、2023年9月6日に開発を中止し、「より積極的なアップグレード」としてM1E3の開発を発表しました。SEPv3からSEPv4へは、システム強化パッケージのバージョン変更扱いでしたが、E3のE指定は、バージョン変更より重要なエンジニアリング変更を意味しています。 M1E3はSEPv4の特徴を取り入れつつ、将来のアップグレードが迅速安価に実施できるようモジュラー式のオープンアーキテクチャを採用する計画で、2040年以降の能力拡張性まで見越したものとなっています。 ところがM1E3の開発発表とほぼ同時期に、陸軍科学委員会が「M1は2040年代の戦場では中国と戦うのに効果的ではなく、優位に立つことはできない。M1の改修延命よりも、新しい技術を活用した小型戦車と無人戦闘車を推奨する」とレポートしたのです。

レポートの理由は2つ

 その理由として陸軍科学委員会は、第1にM1の基本設計が時代遅れで、高度にネットワーク化された作戦環境に適合できないと主張しています。ナゴルノ・カラバフ戦争やウクライナ戦争で判明したように、戦車の敵は対戦車ミサイルや徘徊型弾薬(自爆ドローン)、対戦車地雷、無人航空機(ドローン)など増える一方です。 現代の戦いは、直接の戦闘は局地的でも作戦領域は陸海空宇宙にまで広がって複雑化しており、情報、出来事、兵器システムのスピードは加速して、当事者の意思決定サイクルや反応時間は短くなっています。そのような環境では、単に大きな主砲と厚い装甲、強力なエンジンだけでは戦場の主導権を取れなくなっているのです。

 第2に大きくて重すぎるため、戦術的、作戦的、戦略的機動性に欠けることを挙げています。SEPv3では戦闘重量が74tにまで達しており、運ぶのも動くのも大きな負担です。SEPv4ではさらに重くなりそうでした。 陸軍科学委員会が実施した太平洋地域有事シミュレーションでは、中国が既成事実を達成するまでに、アメリカ軍は十分な数の機甲戦力を送ることができませんでした。従来の重装甲部隊を長距離展開し維持する海上輸送能力の限界と、空輸能力の欠如が明らかになってしまったのです。 機甲旅団戦闘団(ABCT)1個を本土から太平洋地域に海上輸送するには約90日が必要なうえ、輸送船舶は老朽化しています。空輸するにはC-17輸送機で575ソーティ(延べ出撃機数)必要ですが、アメリカは223機しか保有していません。アメリカ陸軍は太平洋地域への戦車増備の意思を固めており、機甲戦力の軽量化は課題であることを認めています。

M1E3の機能を備えた軽量戦車も?

 そこで、陸軍科学委員会が新しい戦車に求めているのが130mm主砲、乗員の減員、ハイブリッド電気推進システム、アクティブ防御システム装備で、かつ重量を55~60tに抑えたもの。この提案に近いのが、2022年10月のAUSA(陸軍協会年次総会)でM1のメーカー「ゼネラル・ダイナミクス・ランドシステムズ(GDLS)」が展示した技術実証コンセプトモデル「エイブラムスX」です。 また委員会は、20~30トンのロボット戦闘車(RCV)やM1E3に求められる機能の多くを備えた35~40トン級軽量戦車の導入も推奨しています。軽量戦車としては、M10ブッカーの取得が進んでいます。 有人戦闘車とチームを組んで活動するRCVの研究は数年前から行われており、小型偵察用の軽量型(RCV-L)、120mm砲まで装備した戦車の代わりもできるような重量型(RCV-H)、その中間の中量型(RCV-M)の3タイプが想定されています。このチーミングがうまくいけば、機甲部隊はより柔軟な運用が可能になり、低コストで戦闘力を向上させることが期待されます。

 しかしRCV戦力化の見通しははっきりしません。2023年8月に陸軍の買収・兵站・技術担当次官補は議会への報告において、無人化技術を確立するためにRCV-Lへ注力している段階で、RCV-Mについては当分延期するとしています。RCV-Hはようやく今年の合衆国陸軍協会(AUSA)の年次総会で、メーカーがモックアップを展示した段階です。 世界最強戦車と謳われたM1が、中国と戦う頃には無力になっているという陸軍科学委員会のレポートは、「必要な物を、必要な時に、必要な数だけ、必要な所に」という兵器の要諦を、M1が満たせなくなっていることを危惧しています。また中国という新しいライバルに対して、1980年代の戦車を60年以上使い続けることを要求されたアメリカ陸軍の不満を代弁しているようで、メーカーの営業的な思惑も見え隠れしています。

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