第367話 2023年倒産数が大幅増 コロナ禍後に生き残る居酒屋とは?

株の神様の声が聞こえるというTさんは、定期的にその教えを受けています。今日は、Tさんと神様は、都内の居酒屋で生ビールを飲みながら投資談義を行っています。


T:残暑の中、ビールが美味い。たまにはお酒を飲みながらの投資談義も良いですね。居酒屋の客足もコロナ渦中に比べて戻ってきているようで何よりです。

神様:そうでもありません。居酒屋業界は今、厳しい変化のときを迎えています。

T:え、そうなのですか?

神様:今、飲食業の倒産件数が増加しています。日本フードサービス協会の外食産業市場動向調査によると、2023年7月の居酒屋の売上高は、コロナ禍前の2019年7月と比べて6割程度へと回復しています。

T:まだ、2019年と比べて6割程度の回復なのですか。

神様:Tさんが感じているように、行動制限がない現在は居酒屋への客足が戻りつつあります。しかし、宴会需要においては依然として厳しい状況が続いています。

T:そう言えば、健康意識の高まりからノンアルコール飲料が売れる(第326話 飲酒習慣に変化 ノンアルコール飲料が売れている理由とは)など、お酒をめぐる習慣も多様化しているのでしたね。飲酒習慣の多様化も影響しているのでしょうか?

神様:それもあるかもしれませんが、問題はより深いです。売上が回復傾向にある一方で、店舗の数は徐々に低下しています。2023年7月の店舗数は、2019年7月と比べて6割程度まで減少しています。

T:それはつまり、倒産している居酒屋が増えているということですか?

神様:その通りです。東京商工リサーチが公表した飲食業の前年同月比の倒産件数は、2022年11月から2023年6月まで、8カ月連続で増加しています。特に「酒場、ビヤホール」で見た2023年1月から6月の倒産件数は、前年同期比で47.5%増加となる90件となり、大幅に増加する結果となりました。

T:コロナ禍の倒産件数はどうだったのでしょうか?

神様:2020年の倒産件数を見ると、「酒場・ビヤホール」は189件で過去最多となりました。外食産業はコロナ禍で営業時間の規制など大きな影響を受けましたが、居酒屋などの酒類を提供する業態は、営業時間の短縮のみならず、営業停止を余儀なくされた店舗も多くありました。その一方で、2021年から2022年にかけては持続化給付金や休業協力金が支給されたこともあり、倒産件数は低下していました。

T:支援によって利益は潤っていた店舗もあったと聞きますが、それらの支援が縮小、または終了していく中で、経営状況が悪化する店舗が増えているのですね。このまま進めば2020年の倒産件数に迫る勢いですね。

神様:コロナ禍で生活様式が変化したことに加え、原油高や原材料価格の高騰によるコストの上昇も経営悪化に拍車をかけています。居酒屋業界では規模の小さい中小企業を中心に、厳しい状況を迎えています。

T:給付金の支給は、お店が繁盛して売上が立ったわけではないですから、利益が潤っても企業価値の向上にはなりませんよね。一時的な救済措置を利用することの難しさを感じます。

神様:ただ、居酒屋の倒産増加傾向は、コロナ禍で始まったわけではありません。実は2019年の居酒屋の倒産件数は過去最多を更新していました。居酒屋を始めとする飲食業界は、コロナ禍前から人手不足問題、後継者問題、消費者の節約志向の高まりなどの課題を抱えていました。先ほどTさんがおっしゃった飲酒習慣の多様化もあるでしょう。そこにコロナ禍が追い打ちをかけたということです。

T:もともとある経営課題に取り組まない限り、状況は改善していかない、ということですね。

神様:今後、残存者メリットを享受できるのは、効率的な店舗運営ができ、財務体質に安心感があり、店舗数を拡大できる居酒屋です。厳しい状況が続きますが、経営改革にまい進している企業がどこかをしっかり見極めていきましょう。

(この項終わり。次回10/4掲載予定)

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