異形のステルス艦「ズムウォルト」ようやく使いものに?「1発=1億円砲」を捨てて装備する新兵器とは

アメリカ海軍が誇る巨大ステルス駆逐艦「ズムウォルト」に新兵器を搭載する工事が始まります。ただ、改修のために2年間も使用不能になるとか。加えて搭載する新兵器も使いものになるかは未知数のようです。

次代を担うハズだったステルス駆逐艦が長期ドック入り

 2023年8月、アメリカ海軍のズムウォルト級駆逐艦のネームシップ「ズムウォルト」(艦番号DDG-1000)が、ミシシッピ州パスカグーラにあるインガスル造船所に到着し、そこで2年間に渡る近代化改修を受けることになりました。 この改修の目玉は、アメリカ海軍初となる極超音速兵器の運用能力を付与することです。極超音速兵器とは現在、アメリカで開発と配備が進められている新兵器で、共通極超音速滑空体(C-HGB)という弾頭がマッハ5(約6174km/h)以上という高速で飛翔。これにより数百km圏内の目標なら数分で攻撃できるようになるといわれています。

 長距離の攻撃兵器としては「トマホーク」を始めとした巡航ミサイルが代表的ですが、このC-HGBの兵器としての性質はむしろ弾道ミサイルに近く、高速で飛翔するために迎撃が難しくて、命中までの時間の短さや、2000km以上にもおよぶ長射程が特徴です。 このC-HGBをベースに、アメリカ陸軍とアメリカ海軍は各々で極超音速兵器を開発しており、前者はLRHW(長距離極超音速兵器)、後者はCPS(通常型即時攻撃)の計画名が付けられています。 今回の「ズムウォルト」の改装ではその兵器を搭載できる4つの新しい発射管が設置されるとのこと。この発射管の大きさは87インチ(約2.2m)で、そこには3基の極超音速兵器を搭載できます。つまり、この改修によって「ズムウォルト」は全部で12基の新型兵器が搭載できるようになります。そして、これにより前述したようにアメリカ海軍初の極超音速兵器を搭載した軍艦になる予定です。 しかし、振り返ってみるとズムウォルト級がこれまでたどってきた開発運用の歴史には多くの紆余曲折があったことも事実です。それは、ある意味でアメリカ海軍の試行錯誤の積み重ねともいえるものですが、同級は先進的なコンセプトであったがゆえに、これまでの近代改修についても手放しに喜べない事情があります。

最大のウリだった主砲はタマなくて使えず

 今回の改修では4つの発射管を追加するために、これまで搭載していた「ズムウォルト」の主砲である2基の155mmAGS(先進砲システム)を撤去することになります。AGSはズムウォルト級にとって艦のコンセプトを象徴する装備品でした。 そもそもズムウォルト級は非常に特徴的な外見をしています。その理由は極端なステルス性を追求したからでした。少ない平面で構成された船体は、フネというよりも建物のような印象がありますが、これによってこの艦のレーダー反射断面積はアーレイ・バーグ級の50分の1にまで低減されていると言われています。

 ズムウォルト級の開発コンセプトのひとつは、この敵に見つかりにくいステルス性を生かして敵地の沿岸部に近づき、そこから陸上への火力支援を行うことでした。155mmAGSは、その攻撃の際に主力となるべき兵器だったのです。 砲弾にはGPSと慣性航法装置による誘導とロケット補助推進を採用した専用の LRLAP(長射程対地攻撃砲弾)が開発され、この砲弾を使った場合の最大射程は約154kmにもなる計画でした。なお、155mmAGSの砲塔内部は完全に自動化されており、毎分で10発のレートで射撃が可能でした。 しかし、政治的駆け引きの結果、ズムウォルト級は建造数が削減されます。それによって、この専用砲弾の調達コストが1発あたり80万~100万ドル(約1億1000万~1億4000万円)まで高騰してしまいます。当初の見積もりは1発約510万円程度になる見込みでしたが、ここまで高騰すると、より高性能な巡航ミサイルと同じくらいの金額であり、コスパ(費用対効果)を考慮すると、とうぜん後者を調達すべきとなるのは明らかでした。 あまりにも高い金額と、ズムウォルト級が3隻しか建造されなかった現状から、アメリカ海軍はLRLAPの調達中止を決定。つまり、ズムウォルト級に搭載された2門の主砲は使うことができない張り子の虎となってしまったのです。

さらにお金かけて改修して使い物になるの?

 今回の極超音速兵器の搭載は、使えなかったAGSを換装する形で行われるため、ズムウォルト級にとってはメリットの大きな改修のようにも思えます。しかし、ズムウォルト級の建造は1隻あたり45億ドル(約6650億円)であり、米メディアのブルームバーグが報じたところでは3隻を含めた計画全体の費用は220億ドル(約3兆2000億円)にも上るのだとか。このため、アメリカ国内でもズムウォルト級に関してはメディアなどで批判的な意見が根強く、そんな船にさらなる予算を注ぎ込んで改修を施すことに疑問を持つ人も多いようです。

 ちなみに今回の「ズムウォルト」の改修工事で造船所と結ばれた契約の金額は1億5480万ドル(約228億円)だそうです。 さらに、前述したように目玉装備として期待されている極超音速兵器自体も、現在は開発中の段階であり、その配備も予定通りに進まない可能性が指摘されています。 アメリカ会計検査院が今年の6月に発表したレポートには、CPSプログラムには「技術の成熟度を実証するために多くの作業が残っている」として配備延期の可能性を指摘しています。加えて、CPSの配備が今回の「ズムウォルト」の近代改修工事の期間中に間に合わない場合は「工事期間の延長か、次の改修工事を待たなければならない」とまで明記しています。 これらを鑑みると、「ズムウォルト」への極超音速兵器搭載は予定通りにいかず、さらなる追加予算さえ必要になる可能性があると言えるでしょう。 先進的で外見上も誰もが振り向くくらいに特徴のあるズムウォルト級。しかし、実際には予算超過とそれによる計画の縮小・変更によって、その存在意義を問われている状況にあります。 よく言えば、極超音速兵器という新兵器の搭載によって、その評価も変えられるポテンシャルを秘めている軍艦だと「ズムウォルト」を捉えることもできなくはないですが、そこに至る道はまだまだ遠く険しいようです。

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