レオパルト2×ルクレール=欧州スーパー戦車!のはずが… 独仏共同開発に暗雲、なぜ?

ドイツの戦車にフランス戦車の砲塔を組み合わせた車両が、2018年の兵器展示会で話題となりました。自国で生産できる2国が協働すればスーパー戦車が出来上がりそうですが、いま、その試みは順調とはいえないようです。

研究開発コストは約15億ユーロ

 ドイツの戦車にフランス戦車の砲塔を組み合わせたらどうなるか――「KMW+ネクスター・ディフェンス・システムズ」(KNDS)という会社が2018年、フランスのパリで開催された兵器展示会「ユーロサトリ2018」(6月11~15日)で実際に展示し、話題になったことがあります。  このKNDSが作った「European Main Battle Tank」(EMBT)は、ドイツ戦車レオパルト2A7の車体と、フランス戦車ルクレールの砲塔を組み合わせたもの。独仏の主力戦車を組合せたキメラ的な車両ですが、出展したKNDSも、独クラウス=マッファイ・ヴェクマン(KMW)と仏ネクスター・ディフェンス・システムズが合併した持株会社です。子会社となったKMWとネクスターはそれぞれ車体関係と火砲関係を担い、EMBTの名の通りドイツとフランスが協働して「欧州標準戦車」をつくろうという取り組みでした。

 外見もインパクトのあるEMBTは、展示会にありがちな張りぼてのデモンストレーターと思いきや、実際に走行し射撃も可能でした。機動性の高いレオパルト2車体と、自動装填装置を備えて軽量なルクレールの砲塔は、意外と相性が良かったそうです。 EMBTはそのまま「欧州標準戦車」になるわけではありませんが、戦車を国産できる能力のあるドイツとフランスが協働すれば、優れた未来の戦車が出来上がりそうです。フランス軍事省装備総局(DGA)は「最新の戦闘クラウドで陸海空宇宙の様々な兵器システムとネットワーク化すれば、新しい技術、アルゴリズム、人工知能に依存し、自動化がすべての機能を支配し、戦闘行為に固有の指揮責任の下にありながら、戦術的優位性に貢献する」と期待感を示しました。これには政治経済的な意味もあったでしょう。 この計画はMGCS(Main Ground Combat System)プログラムとして2017(平成29)年から開始され、2025年までに技術検証車を製造、その結果を受けてプロトタイプ製造へと進み、2035年頃に配備開始を予定しています。最終的な研究開発コストは約15億ユーロ(約1850億円)と見積もられています。

レオパルト2(改)ではダメなのか

 しかし兵器の国際共同開発は利害の衝突で失敗する場合も多く、旧西ドイツとアメリカが共同開発したMBT-70(西ドイツ名称:KPz.70)も、1964(昭和39)年から1971(昭和46)年まで7年の歳月と多くの開発費と費やして、結局は決裂、中止となりました。西ドイツは同時期にレオパルト2の開発も進めており、Kpz.70の保険をかけていたようにも見えます。 そしてMGCSの開始から6年を経た2023年、9月4日付ドイツの経済日刊紙『ハンデルスブラット』は、ドイツの政府関係者や産業界を引き合いに出し、「MGCSは失敗寸前であり、パリとベルリンの“違い”はあまりにも大きすぎる」と報じました。

 フランスでは、稼働率が低下する一方であるルクレールの更新問題が焦眉の急となっています。フランス元老院(上院)は、ルクレールの近代化改修案(Mk3)を含めた予算修正案を国民議会(下院)に提示しますが採択されず。これは、MGCSの2035年配備開始を期待して予算を節約したい軍事大臣の要請によるものでした。MGCSへの期待には切迫感さえあります。 一方ドイツでは、レオパルト2の需要が国際市場で高まっており、最新型2A8もすでに生産軌道に乗っています。2023年2月にはノルウェーから発注を受けているほか、イタリアも国産のC1アリエテ戦車の延命を模索しつつ、2024年から125両以上の2A8を購入する計画があることをイザベラ・ロウティ国防次官が7月に明らかにしました。またリトアニアも、2A8を最近発注したと報じられています。 レオパルト2の好調な販売実績から、ドイツ議会では野党を中心に「欧州標準戦車はレオパルト2の改良型で充分ではないか」との声が強くなっており、MGCSへの熱量は低く予算配分が危うくなってきています。

交錯する思惑 一枚岩ではない独仏

 あるドイツ産業界関係者も、『ハンデルスブラット』の取材に「我々はもはやMGCSを信じていない」と答えているように、ドイツ産業界内部からも不協和音が聞こえてきます。 MGCSに必須とされた130mm滑腔砲はラインメタルの担当になっているのですが、2022年の兵器展示会「ユーロサトリ2022」にラインメタルは、130mm滑腔砲を搭載する独自開発中のレオパルト2の発展型「KF51 パンター」のコンセプトモデルを独自に出展しました。MGCSのコンセプトモデルを出展したKNDSは、コンソーシアム企業であるはずのラインメタルの抜け駆け的な動きを批判しています。

 KNDSのドイツ側責任者であるラルフ・ケッツェルは、ラインメタルはドイツ政府の要請でコンソーシアム企業として後から加わった経緯があり、KNDS創設時には想定されていなかった複雑な三角関係となってしまったことを明かしています。 ルクレールを早く更新したくてMGCSニーズの高いフランスと、レオパルト2の好調さからMGCSニーズの低いドイツの温度差は、ますます明瞭になってきています。さらにややこしいことに、KNDSの持株比率は独ウエッグマン&CO・GMBHが50%、仏ジアット・インダストリー50%であり経営権が二分されていることで、独仏が対立した場合、経営方針が決められなくなる可能性さえ出てきています。7月にルコルニュ仏軍事大臣とピストリウス独国防相は、MGCS開発を最後までやり遂げると再度確約しました。 戦車需要の拡大により、欧州にも韓国のK2戦車が参入するなど戦車市場は激変しており、現代戦で戦車の必要性が見直されて市場拡大が見込まれる中でも、MGCSの将来は明るいとはいえないようです。

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