敵が同じ地雷使うかも…「戦車の表面ザラザラにしよう!」ドイツが考えた防御法 なぜ続かなかった?

第2次世界大戦中のドイツ戦車などでしか見られない、車体表面のザラザラ仕上げ。これは製造が雑だとかではないようです。わざわざ表面にコーティングしていたのですが、どんな効果を狙って施したものなのでしょうか。

装甲板に地雷がくっつかないように

 1940年代前半の一時期、ドイツ軍戦車の車体表面がザラザラに波打っていたことがあります。これは「ツィンメリット・コーティング」というものが施されていたからですが、いったいなんのためだったのでしょうか。しかも、なぜ短期間で消えてしまったのでしょうか。

 第2次世界大戦中、ドイツ軍は吸着式の対戦車地雷(吸着地雷)を開発します。ただ、これは地雷とはいっても地中に埋めるものではなく、磁石によって敵戦車の装甲板に貼り付けて使用するものでした。 というのも、爆発のエネルギーを一点に集中させる成形炸薬効果を利用して装甲に孔を開け、撃破するので、正しい起爆面を敵戦車の装甲板に向けなければならず、そのために磁石を使って装甲板、すなわち鉄板に吸着するようにしていたのです。 なんらかの方法で発射したり、投げつけたりするのではなく、生身の人間が「生きた敵戦車」に直接地雷を貼り付けるなど、状況によっては自殺にも等しい危険な行為です。そして、それによって敵戦車を攻撃する磁石吸着式の対戦車地雷は、まさにほかに手段がない切羽詰まったときに使用する、決死の対戦車兵器ともいえるシロモノでした。 ただ、効果はてきめんだったため、磁石吸着式の対戦車地雷を開発した際、ドイツ軍は考えました。「自分たちがこういう兵器を開発しているのだから、きっと敵も同様の兵器を近々造るに違いない」 こうした発想から、ドイツはこの兵器から戦車などの装甲戦闘車両を守る方法も発案するに至ったのです。

コーティングに網目や縞々模様が入っているワケ

 それはどういうものかというと、鋼鉄製の装甲板の表面に非磁性体のコーティングを塗布して、磁石を使った兵器が、装甲板に吸着できないようにするというものでした。このコーティングの開発には、建築材料などを手がけており、瀝青質のシーリングやコーティング材の製造を得意とするツィマー社があたりました。 主成分には、硫酸バリウムのような非磁性体の顔料の粉末が用いられ、これに増量と広がりをよくするため“おが屑”を混ぜます。加えて装甲板に塗るときの接着剤となるポリ酢酸ビニルも練り込むことで作られました。

 開発したツィマー社にちなんで「ツィンメリット」と呼ばれるようになったこのコーティングは、1943(昭和18)年8月に制式化され、戦車や駆逐戦車などのAFV(装甲戦闘車両)に対して工場で出荷前に塗られるようになりました。ただ、ごく一部には前線部隊で塗られたものもあったようです。 使用が開始された初期には、装甲板に対してツィンメリットをベタ塗りしていました。ところがベタ塗りだと、装甲板への被弾時の衝撃で広範囲に剥離脱落することが判明します。そこで、ツィンメリットのコーティングにたくさんの溝を網目状や横線状に刻むことで、磁石の吸着を防ぎつつ、網目状や横線状の限定された範囲内での剥離で済ませ、ベロンと広範囲に脱落してしまうのを防ぐ工夫が施されるようになりました。

コスパと生産効率から1年ほどで終了

 ただ、ツィンメリットは塗るのに手間がかかるうえ、乾燥させるにも時間がかかるシロモノでした。しかもドイツ側の思惑とは異なり、アメリカやイギリス、ソ連などの連合軍側は磁石吸着式の対戦車地雷を使用しませんでした。そこで費用対効果と生産性の観点に基づき、わずか1年後の1944(昭和19)年9月に塗布が中止されています。 ところが1944(昭和19)年後期以降、東部戦線におけるドイツ軍の撤退や敗走が相次ぐ状況下、ソ連軍は、ドイツ製の吸着地雷を大量に鹵獲(ろかく)。これを用いて、ドイツ軍AFVに対し攻撃を仕掛けるようになります。その際、まだツィンメリットが剥離脱落せずに残っていたドイツ軍車両は、自国の吸着地雷に対抗できたという皮肉な話も残っているほどです。

 また、大戦末期から戦後にかけて、イギリスとカナダではM4「シャーマン」中戦車、「クロムウェル」巡航戦車、「チャーチル」歩兵戦車、「ラム」巡航戦車などを用いて、カモフラージュも兼ねた、似たようなコーティングの運用試験を実施しました。しかし使用者の危険性がきわめて高い吸着地雷のような対戦車兵器ではなく、代わりにバズーカのような歩兵携行式の対戦車ロケット発射器が主流となったため、結局、イギリスやカナダでは実用化されずに終わっています。 第2次世界大戦中のドイツ軍戦闘車両だけに見られた奇妙なザラザラの外観。実はこれもまた、いかに戦場で生き残るか、試行錯誤した自衛手段の一種だったといえるでしょう。

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