瀬戸内海のフェリー「昼行」はなぜ難しい? 数ある航路は夜行ばかり 最高に楽しい船旅なのに

瀬戸内海を縦断するフェリー「さんふらわあ」を昼に運航する特別クルーズは、3本の本四架橋や浮かぶ島々、行き交う船を眺めながらの船旅で高い人気を誇ります。フェリーは夜行便が主流ですが、昼の運航を増やすのは難しいのでしょうか。

これ目当てで乗りに来る人が多い「さんふらわあ昼の瀬戸内海クルーズ」

 瀬戸内海を縦断して本州・四国・九州を結ぶ航路はいくつかありますが、その多くは「夜行」です。3本の本四架橋や、島々が織りなす「多島美」と呼ばれる景観を一度に、明るいうちに堪能できる機会は多くはありません。それを楽しめる「瀬戸内海の昼運航」は、高い人気を誇っています。

 大阪~別府航路などを運行するフェリーさんふらわあが、「昼の瀬戸内海カジュアルクルーズ」を7月から11月にかけて数回、行っています。2023年の同企画の船は、同年竣工した国内初となるLNG(液化天然ガス)燃料フェリー「さんふらわあ くれない/むらさき」(1万7114総トン)です。このピカピカの新造船に乗って、瀬戸内のクルーズを堪能してきました。 筆者が乗船したのは7月8日の運航初便。大阪南港のさんふらわあターミナルを13時に出発し、翌4時25分に別府観光港へ到着(下船開始は7時55分)する「さんふらわあ くれない」です。定刻に出港すると、咲洲にそびえるコスモタワーをバックに、志布志航路の「さんふらわあ さつま」(1万3659総トン)から見送りを受けながら大阪港から大阪湾へと出ていきます。 乗船人数は約200人。「くれない」の最大旅客定員は716人ですから、船内はだいぶ余裕があります。 とはいえ、「今回は関東や中部地方の利用者が多い」と説明するのはフェリーさんふらわあ営業グループ課長代理の三田恭平さん。「全体的な割合を見ると車利用は少なく、大阪まで新幹線や飛行機で来ている。瀬戸内海の景色もそうだが、親へのプレゼントやリッチな女子旅などいろいろな使い方をしている。リピーターというより初めて乗船する方のウェイトが大きい」とのこと。 貨物輸送は、週末で昼発の臨時便ということもあって、普段に比べて台数はかなり少なかったものの、有人トラック1台とトレーラー数台を積載しました。「昼クルーズ」のような運航がレギュラーにならない理由のひとつが、ここにあります。瀬戸内海の長距離フェリー航路は翌日配送の貨物輸送に特化しているため、どれも夜に出発し朝に到着するというダイヤが基本。また旅客にとっても、仕事終わりに乗船して夜を過ごし、朝から現地を観光できるというメリットがあります。 そうした背景もあって昼行便が設定されておらず、特別な機会でもないと乗ることはできません。フェリーさんふらわあの場合は、別府航路に並行して神戸~大分航路があるため、この日も全体的な輸送量に大きな変化は無かったようです。

貴重な「昼行」のフェリーに遭遇!

 かつて関西汽船の別府航路が寄港していた神戸港の沖合を通り過ぎると、神戸市と淡路島を結ぶ明石海峡大橋が目の前に現れます。明石海峡大橋は全長約3911mで、中央支間長は世界一の約1991m。2つの主塔の高さは約300mにもなります。その迫力ある姿は、瀬戸内海航路を代表する構造物の一つとして知られており、多くの人がデッキに出て写真を撮っていました。ここ明石海峡を抜けると播磨灘。いよいよ瀬戸内海の島々を巡る旅が始まります。 左舷側に淡路島を見ながらしばらく航行すると、右舷前方にうっすらと小豆島が見えてきます。少し近づいたタイミングで持っていたカメラを向けると、島影からちょうどジャンボフェリーのフェリー「あおい」(5200総トン)が出てきました。小豆島には本州側と四国側から複数のフェリー会社が就航しており、同社はこのうち神戸~小豆島(坂手)~高松航路を運航しています。さんふらわあも2011年まで大阪~小豆島航路を運航しており、繁忙期は行楽客で満船だったといいます。フェリー「あおい」は2022年9月に竣工しているので、新鋭船同士のすれ違いとなりました。 小豆島の地蔵崎灯台を抜けると備讃瀬戸東航路に入ります。この周辺は多くの船が行き交っており、小型漁船や内航のLEG(液化エチレンガス)船、タンカー、タグボート、外航の大型貨物船などが雄大な四国の山々を背景に次々と現れては後方へ去っていきます。

 航路の北側には豊島、直島諸島。南側には男木島、女木島。いずれも瀬戸内国際芸術祭の舞台として世界的に知られる島々です。「さんふらわあ くれない」を含め、瀬戸内海を行く船はこうした島々の間を縫って航行していきます。さまざまな島と大きさが全く違う船が、かなり近い距離で並ぶのは、瀬戸内海特有の景色の一つではないでしょうか。 岡山県と香川県の県境が島の真ん中を通る大槌島を越えれば、塩飽諸島と本日2つ目の本四架橋である瀬戸大橋が見えてきました。乗船中の「さんふらわあ くれない」はここから備讃瀬戸北航路へと入っていきます。

いた! いまの瀬戸内海のヌシ的な異形の船

 通常ダイヤなら真夜中の0時前後にくぐるため、橋の姿を観察することができませんが、今回は「瀬戸大橋」を構成する吊り橋の南北備讃瀬戸大橋だけでなく、トラス橋の与島橋、斜張橋の岩黒島橋、さらには瀬戸大橋線を走る列車まで船上から眺められました。また、瀬戸大橋周辺は坂出の石油タンクや丸亀の造船所といった工業施設の見どころも満載です。 本島と午島の間を抜けてこれから塩飽諸島の多島美を楽しめると思った瞬間、空が一気に暗くなり大粒の雨が降ってきました。風も強くなったためデッキでの撮影を諦め船内へと入ります。「さんふらわあ くれない」は瀬戸内海で最大サイズのフェリーなだけあって、船内設備が非常に充実しているのがセールスポイント。各階の窓際には広いソファーが置かれているため、コーヒーを飲みながら船内で優雅に過ごすこともできます。 窓から外の様子をうかがっていると、後ろにぴったりとくっついている船がいます。船名は「第六はる丸」(1万2404総トン)、大王海運のRORO船です。雨も収まって来たので写真に撮ろうとデッキに出て少し船首方向に目を向けると、旅館のようなデザインが特徴的な宿泊型客船「ガンツウ」(3013総トン)が、夕暮れ迫る瀬戸内海の海を静かに走っています。「ガンツウ」は高級志向のクルーズ船として有名で、全室テラス付きのスイートで部屋の数はわずか19室。船内には檜の浴槽やサウナなどがあるそうです。瀬戸内海を楽しむために特化した超豪華かつ異形のクルーズ船は、観光資源としての瀬戸内海そのものの魅力を国内外に発信する象徴的な存在ともいえます。 20時30分、ライトアップされた来島海峡大橋を通過。これで全ての本四架橋を見ることができました。アトリウムで行われた二胡とピアノの演奏と共に夜は更けていき、いつの間にか消灯時間となります。広々とした展望大浴場も堪能し、部屋で寝ている間に船は別府観光港に到着しました。

 朝起きるとLNG燃料を積んだタンクローリーが船の真下に次々と到着するところでした。目の前に広がるのは温泉地・別府の景色。朝食をたっぷり食べ、下船に備えて荷物を整理しながら20時間の船旅を終えての感想を考えると、まだ乗っていたい、もっと瀬戸内海の景色を見たいという感情が沸いてきました。※一部修正しました(9月17日16時51分)

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