
JR函館本線の山岳区間にある、周りに集落も見当たらない秘境駅・比羅夫駅。ここは駅舎が宿泊施設になっています。自然を体感できる静かな駅ですが、遠くない将来、廃止も予定されています。
宿泊するために下りる駅
小樽駅からJR函館本線で南へ66km、9駅目のところに「比羅夫駅」という無人駅があります。
ここは函館本線の中でも、閑散区間である通称「山線」に属しています。倶知安駅を出発して市街地から厳しい山岳区間に入り、どんどん標高を上げていき、8分ほど揺られると、比羅夫駅に到着します。駅の周囲には集落と呼べるものは皆無で、ただただ山奥にポツンと、ホームと駅舎があるだけです。 北行きの列車に乗ると、車内放送で異例の案内が行われます。「比羅夫地区へは交通機関がありませんので、比羅夫駅では下りずに、倶知安駅からバスやタクシーをご利用ください」 駅から一番近いところで、徒歩20分の樺山地区にペンション村があります。しかし、今も発展中のリゾート中心地の「ニセコひらふ」地区はさらに遠く、徒歩で50分近くかかります。 このように人里から隔絶した「秘境駅」である比羅夫駅。しかし全国から、この駅を目的地として、旅人が足を運んできます。その理由は、この駅が珍しい「泊まれる秘境駅」であるからです。
自然と一体化した「駅の宿」今後は
「駅の宿ひらふ」が誕生したのは1988(昭和63)年。国鉄民営化のあと、無人駅となって久しい駅舎部分を活用する形で、待合室以外の部分を改装して開業しました。現在は駅舎の隣にもコテージがあります。 18時38分、長万部行きの列車からホームに下り立ったのは、自分だけ。列車はすぐに走り去って、音も聞こえなくなりました。ホームでは先客の4人組がいて、バーベキューを楽しんでいました。宿泊予約サイトに書いてあるとおり、正真正銘「下車徒歩0分」の宿です。 丸太小屋のコテージ内は2段ベッド2台がありますが、今回はひとりで独占状態でした。駅舎1階奥に家庭用浴室があります。倶知安駅前のスーパーで買った惣菜で一杯やり、日没を迎えると、いよいよ虫の音以外は完全な静寂となります。 21時28分。漆黒の暗闇の中、小樽行きの最終列車が去っていきました。見上げると一面に星がちりばめられ瞬いています。しばし時間を忘れて佇みました。ここは、鉄道駅のホーム。傍らには「ひらふ」と書かれた駅名標が立っています。ここで明日の朝を迎えることとなります。 さて、この比羅夫駅を含むJR函館本線の長万部~余市~小樽間は、北海道新幹線の開業にあたって廃止となることが決定しています。比羅夫駅に列車がやってくるのも、あとわずか数年ということになります。 この「駅の宿」はどうなるのでしょうか。2代目のオーナーである南谷吉俊さんは「どうしていくのかは、まだはっきりとは考えていません。新幹線の開業は早くても2030年度ですよね。今から7年も先のことですから…」と話しました。 早朝、ガタンゴトンと回送列車が通過していく音で目が覚めました。朝に似つかわしくないほど静かな朝です。ラッシュとも無縁のこの駅。6時30分、長万部行きの一番列車がトコトコとやってきました。リュックを背負い、名残を惜しみつつ、6時46分発の札幌行き「ニセコライナー」に乗車しました。通勤電車のようなキハ201系の3両編成と、自然に溶け込んだ小さな無人駅とのギャップが印象的でした。 最後部の窓からふとホームを振り返ると、列車が去っていく中、オーナーが手を振ってくれていました。