護衛艦「いずも」で合宿? アジア太平洋の各国が参加し“浮かぶ教室”で学ぶ 「力の支配はいけないこと」

海上自衛隊最大の護衛艦「いずも」に、各国の要員が乗り込む「乗艦協力プログラム」。今年は太平洋地域の島しょ国も巻き込んだ拡大版も実施されました。「いずも」がいわば“浮かぶ教室”となるプログラム、そこで何を学ぶのでしょうか。

あくまで「法の支配」で臨む日本 周辺国もよろしく!

 防衛省と自衛隊は2023年8月6日から13日までの1週間、令和5年度インド太平洋方面派遣(IPD23)部隊の第1水上部隊として活動しているヘリコプター搭載護衛艦「いずも」の艦上で、「第5回日ASEAN乗艦協力プログラム」と「第1回日太平洋島嶼国及び東ティモール乗艦協力プログラム」を実施しました。

 前者のプログラムはASEAN(東南アジア諸国連合)に加盟する7か国、後者には太平洋島嶼国10か国と東ティモールからそれぞれ要員が参加。日本から参加した防衛政策局インド太平洋地域参事官3名と海上幕僚監部の要員1名と共に、海洋に関する国際法を含む各種セミナーの受講、「いずも」での各種訓練の見学、搭載航空機への体験搭乗、参加者による海洋安全保障に関する発表などを行っています。 中国は南シナ海にある南沙諸島の領有権を主張していますが、同様にマレーシア、ベトナム、フィリピン、ブルネイも南沙諸島の領有権を主張しており、南沙諸島の岩礁を埋め立てて軍事基地を建設している中国に対して神経を尖らせています。 マレーシアやベトナムなどは、中国の“力による現状の変更”に対し非難声明を発表したいと考えているものの、中国との関係を重視するカンボジアやラオスといった国々は消極的な姿勢を示しており、全加盟国が共同歩調を取ることが原則のASEANとして、中国への非難声明を出すことは難しいようです。 この状況を注視していた日本政府は、2016年11月16日にラオスの首都ビエンチャンで行われた第2回日ASEAN防衛大臣会合に参加して、日本とASEANの防衛協力の指針となる「ビエンチャン・ビジョン」を発表しています。 ビエンチャン・ビジョンは、紛争の平和的解決の基礎であり、中国の力による現状の変更の対抗軸でもある「法の支配」を貫徹することを掲げています。このため、ASEAN諸国の軍隊や法執行機関に対し、海洋・航空分野における国際法の認識共有促進の支援を、柱の一つに据えています。

「いずも」で一体何するの?

 日ASEAN乗艦協力プログラムは、インド太平洋地域に派遣されている海上自衛隊の艦艇にASEAN10か国の若手海軍士官などを招待して、艦内で情勢の認識や、国際法遵守の重要性に関する勉強会などを行うもの。日本と認識を共通化してもらい、ビエンチャン・ビジョンの実現を目指す目的で2017年から行われています。 日太平洋島嶼国及び東ティモール乗艦協力プログラムは、日ASEAN乗艦協力プログラムの対象国をフィジーなどの太平洋諸国と東ティモールに拡大したものです。バヌアツなど軍隊を持たない国々からは沿岸警備隊や警察関係者を招待している点が日ASEAN乗艦協力プログラムとは異なっています。 これまで行われた5回の日ASEAN乗艦プログラムのうち3回は「いずも」で開催されています。 その理由、同艦が海上自衛隊最大の護衛艦で、全通甲板を備えた事実上の空母であるため、海外からの注目度が非常に大きいことや、定期的にインド太平洋方面の長期展開を行っているため、ASEAN諸国の要員を招待しやすいからでしょう。この種のプログラムの実行に最適な「多目的室」を備えている点も、「いずも」が選ばれた大きな理由の一つだと筆者(竹内修:軍事ジャーナリスト)は思います。 いずも型とひゅうが型の両ヘリコプター搭載護衛艦には、対潜作戦の要としての能力に加えて、島嶼防衛や大規模災害の救援などにおける洋上司令部としての機能も求められています。 このため両ヘリコプター搭載護衛艦には陸海空三自衛隊によって編成される統合任務部隊の司令部を設置できるだけの余裕を持つ多目的室が設けられることとなりました。なお、この多目的室は天井に手術灯を配置するなど、有事の際には戦闘治療所として使用することができます。

「いずも」の“教室”にあるものとは?

 筆者は2015年5月に幕張メッセで開催された海洋防衛セキュリティイベント「MAST ASIA 2015」で「いずも」の艦内ツアーに参加した際に多目的室にも足を踏み入れましたが、その壁に「いずも」と同艦の艦名の由来の一つである旧日本海軍の装甲巡洋艦「出雲」が描かれた絵画が飾られていたのが、強く印象に残っています。 いずも型の多目的室では日ASEAN乗艦プログラムだけではなく、西太平洋地域の多国間海軍協力の枠組みである西太平洋海軍シンポジウムの次世代海軍士官短期交流プログラムの講義や、AESANの海軍士官を対象とした捜索救難セミナーなども開催されており、同盟国・友好国との関係強化と日本と海上自衛隊への理解を深めておらうための、「浮かぶ教室」として機能しているのです。

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