
ウクライナにしてみれば、供与されるも破壊された西側の戦車は、なるべく前線に近い場所で修理のうえ復帰してほしいところでしょう。そこで、隣国ポーランドに修理工場を建設する話が持ち上がりますが、一筋縄ではいきませんでした。
損耗率は4.2% 証明された「固さ」
ドイツ製のレオパルト2戦車は、欧米のウクライナ支援の宣伝ではなく、本当の戦争をするために送られました。しかし地雷原に乗り上げ煙を吹き上げるレオパルト2の姿は、SNS上で広く拡散され、一部でイメージされていたような無敵ではないことを示しています。
ウクライナ軍が西側戦車を使いこなせているのかという練度の問題を脇に置くとしても、実戦ですから損傷して当たり前です。問題は損傷した後、戦車をどれだけ修理して戦線に復帰させられるかということです。戦争もまもなく1年半が経過し、どんな戦車を何台供与するというよりも、供与した後どのように持続的な戦力として維持するかが要諦になってきています。 ウクライナには2023年7月末の時点で、レオパルト2が95両引き渡されたとされています。軍事情報サイト「oryx」の8月6日の記述によれば、レオパルト2A4の全損2両、損傷4両、2A6の全損2両、損傷4両、損傷放棄2両となっています。全損は修理不可能すなわち損耗となりますが、損傷は修理可能と見積もられます。この見方だと、レオパルト2の実質的な損害は4両だけ、損耗率は4.2%ということになります。 レオパルト2などの西側戦車は、完全に破壊するのは難しいとされていましたが、どうやら評判通り「固い」ようです。しかし、この「固さ」も修理して戦線に復帰してこそ意味があるのですが、どうやらその修理が順調ではないようです。技術的な話ではなく、国際政治経済的な話です。 レオパルト2をどのように修理するか、国際的なルーチンは確立していません。レオパルト2はベストセラー戦車で台数も多く、程度の良いレオパルト2A6あたりを集めて各国が真剣に協力すれば、ウクライナへの「戦車支援連合」ができるはずでした。ところがそうはいきません。
ドイツとポーランド、決して仲は良くない…
2023年初めまで、ドイツはレオパルトの供与に消極的でした。ほかの国々もいざ供出する段階になると自己都合が優先し、仕様を統一できないどころか品質もバラバラという有様。国名は伏せますが、ある国はレオパルト2A4を自軍の長期保管(放置)品から引っ張り出したものの、「これを送ったら却ってウクライナ兵を危険にさらす」と気づいたそうです。 また、ドイツとウクライナのあいだに位置し、「兵站基地」となっているポーランドも、ドイツとの関係は良好とはいえません。そもそもポーランドは歴史的経緯もあり、ドイツを安全保障の同盟国として信頼していないとさえいわれます。
レオパルト2のメーカーであるラインメタルとクラウス・マッファイ・ヴェグマン(KMW)が合弁会社を設立し、ポーランド国営軍需メーカーPGZと共同で、5月末までにポーランドのグリヴィツェとポズナンに共同戦車工場を建設する計画を立てたものの難航しました。修理費はドイツが負担することになっていましたが、ドイツのシュピーゲル紙によれば、「PGZは戦車の損傷を診断するだけでも1両あたり10万ユーロかかると主張し、一方ラインメタル/KMWは、診断費用は1万2000ユーロで済むと反発、真っ向から対立した」と報じました。 金を払うドイツから見れば、ポーランドが「ぼったくろう」としていると受け取ったようです。相互の不信感は根深いものがあるようで、ドイツの経済紙ハンデルスブラットが7月中旬に「共同戦車工場計画は白紙撤回か」と報じるほどでしたが、結局7月24日に合意に達したことが公表されています。
市場拡大を狙った先行投資?
一番ヤキモキしたのはウクライナでしょう。ドイツとポーランドが合意する前から、PGZの工場には少なくとも4両の修理待ち2A4が運び込まれているのが確認されています。「oryx」による損傷数とも一致するので、損傷車すべてが送られたようです。ウクライナは、一刻も早く修理して前線に戻ってきてほしいはずです。ウクライナには戦車を国産できる工業基盤もありますが、パーツ供給や規格違いの問題もあり、西側戦車を修理するのはハードルが高いようです。
そんなウクライナの切実なニーズに応えるべく、ラインメタルはさらにウクライナ国内に修理工場を建設しようと、ウクライナの国営軍需メーカー「ウクロボロンプロム」と合弁会社を設立しています。7月中旬の段階で、12週間以内には稼働可能と表明し、ウクライナ人従業員を雇用し技術研修も行うといいます。ラインメタルはこの会社の株式の51%を保有し経営権を持ちます。ウクライナにしてみれば、前線に近い国内に修理工場があった方がはるかに便利で安心ですが、ドイツ(ラインメタル)にとっては将来の市場拡大を狙った先行投資であることは間違いありません。 ラインメタルのアルミン・パッパーガーCEOは、以前からウクライナ国内に戦車製造工場を建設するとぶち上げるなど積極的な姿勢を示しており、2023年初めにもラインニッシェ・ポスト紙に対し、ウクライナに2億ユーロ(2億1800万ドル)をかけて年間約400両の戦車を生産できる体制を構築したいと語っています。 西側戦車は全損が少なく「固い」ことが確認されましたが、感心してもいられません。回収し修理して前線に戻さなければ意味はないのです。アフタフォローは継続的な事業であり、各国の利害関係が今後顕在化してくるかもしれません。