『ガンダム』の“スナイパー”型MSとは? 全長18mの巨体が隠れて狙撃…一体どうやって?

アニメ『機動戦士ガンダム』には「○○スナイパー」と呼ばれる、狙撃を目的としたモビルスーツが、頻繁に登場します。ただ、普通に考えると全高18mもの巨大な人型兵器で、人間のスナイパーのような隠密狙撃は難しいのではないでしょうか。一体どんな用途があるのか考察します。

「狙撃兵」以外の意味も含む「スナイパー」なるコトバ

 アニメ『機動戦士ガンダム』には、様々なモビルスーツが登場しますが、そのなかでも「1年戦争」と呼ばれる時間軸のなかで比較的人気があるものとして挙げられるのが、「○○スナイパー」と分類される狙撃型モビルスーツではないでしょうか。「ガンダム」世界では、地球連邦軍とジオン公国の戦いが主に描かれていますが、前者には「ジムスナイパー」「ジムスナイパーカスタム」「ジムスナイパーII」が、一方後者には「ザクスナイパー」などがあり、このようにスナイパーを冠した機体は複数あることがわかります。 ただ、これらは「巨大ロボット」であるため、全高でいうと約18mもあります。そんな“巨体”が「狙撃」するとは、どんなシチュエーションを想定しているのでしょうか、筆者(安藤昌季:乗りものライター)なりに考えてみました。

 なお、あらかじめ断っておくと「ジムスナイパー」は狙撃型ですが、「ジムスナイパーカスタム」は狙撃兵という意味ではなく、ラグビーのフォーメーション「スナイパー」と、モデルガン「コンバット・コマンダーカスタム」を組み合わせた造語という設定もあるようです。とはいえ、同機が装備している「R-4タイプ・ビーム・ライフル」は狙撃用ビームライフルという設定でもあるため、狙撃用モビルスーツと捉えてもよいと思われます。 ほかにも、外伝的作品の『機動戦士ガンダム 第08MS小隊』に登場する「ジムスナイパー」は、陸戦用ジムを元にしているため、『機動戦士ガンダム』の同名機体とは全く異なるものですが、ロングレンジビームライフルを装備した、長距離狙撃用ビームライフルとのことであるため、想定される任務は大差ないのでしょう。 一方『機動戦士ガンダム0080』に登場する「ジムスナイパーII」は、前出した両者の流れを組む機体であり、頭部に精密射撃用センサーと、高倍率カメラを備えたバイザーを持ち、それを降ろすことで頭部全体を冷却して、超長距離での狙撃を行える機体という設定です。 また『機動戦士ガンダムUC』には、ジオン軍の「ザクI」を長距離狙撃用に改装した「ザクI・スナイパータイプ」が登場するほか、マンガ『機動戦士ガンダム MSV-R ジョニー・ライデンの帰還』では、登場人物のひとりジャコビアスが狙撃用に改造された専用モビルスーツに搭乗するシーンが描かれています。このように狙撃用モビルスーツは一ジャンルなのです。

MSじゃ無理! 実戦での「スナイパー」の戦い方とは?

 そもそも現実の軍隊における狙撃手とは、多くの場合、専用の狙撃銃または小銃(ライフル)で狙撃を行うために特別な訓練を受けた存在です。基本的には、適切な狙撃ポイントまで移動して、相手に対して気づかれることなく待ち伏せし続け、目標を確実に捕捉する役割を担います。 狙撃手とは狙撃に専念すべき立場ですから、周囲の警戒や索敵、射撃した弾丸の観測を行う観測手とペアで動くのが基本であるほか、目標に存在を気づかれ難くするため、迷彩服やギリースーツ(植物を模した覆い)などを身に着けるなど、偽装も施します。 正しく隠蔽され、かつ実力の高い狙撃手の存在は、少数で多数を撃破、あるいは足止めすることも可能です。第2次世界大戦中にその名を轟かせたフィンランド軍の狙撃手シモ・ヘイヘは、その卓越した力量により、判明しているだけでも542人の敵兵を狙撃し、ソ連軍(当時)に大きな損害を与えたほどです。 では、狙撃用モビルスーツを使用しての「狙撃」とは、どのようなものになるでしょうか。

 宇宙であれば、隕石やデブリと呼ばれる宇宙のゴミ、また戦闘によって生じた兵器の残骸といった遮蔽物に身を隠し、遠距離射撃に専念することでしょう。そういった戦いを優位に進めるために、『機動戦士Zガンダム』以降では、モビルスーツ型のバルーンなど、自身の存在を隠蔽する装備も登場しています。 『機動戦士ガンダム サンダーボルト』ではジオン軍のダリル・ローレンツが、狙撃戦闘を繰り返して、地球連邦軍に甚大な損害を与えただけでなく、味方に攻撃目標を指示するなどしていました。 では、地球上やコロニー内での狙撃戦闘はどうなるでしょうか。ここで問題となるのは、モビルスーツが巨大であるという点です。筆者は「GUNDAM FACTORY YOKOHAMA」で実物大の動くガンダムを見てきましたが、300m以上離れていても存在がはっきり認識できるほどの巨大さでした。ガンダムの全高18mとは、奈良の大仏(15m)を上回り、6階建てのビルに匹敵するサイズであるため、隠蔽するのは大変なことです。

寝そべっても戦車より背が高く、隠せない…

 市販されている「ザクII」のプラモデルから、モビルスーツ各部の大きさを割り出してみましょう。寝かせたときの体の高さが5.02m、足の長さが10.3m、腕の長さが8.6m、頭の幅が2.15m、拳の大きさが1.57m、コクピットハッチの幅が70cmでした。やはり大きいです。 寝かせても、陸上自衛隊の10式戦車(全高2.3m)と比べて倍以上の高さになるので、狙撃ポイントを探すのは、難儀するのではないでしょうか。なお『機動戦士ガンダム サンダーボルト』では、偽装用のフードを付けたり、あの粒子迷彩が施されたりしたモビルスーツも登場しています。 森林は5mくらいまでの高さが「低木層」、5~10m程度が「亜高木層」、20m程度に達するのが「高木層」と区分けされています。日本ではモチノキや杉、楠などが「高木層」に該当します。そう考えると、モビルスーツを隠せる樹木は限られてくるでしょう。

 ちなみに、日本では街灯や道路標識が高さ5m前後ですから、モビルスーツはその3倍以上の高さがあります。こうしたことから、地上では「モビルスーツの存在を隠蔽して精密射撃」というのは、なかなか大変なことです。人間のスナイパーとは異なり、隠蔽はあまり重視されておらず、高性能なセンサーを装備し、狙撃用ライフルで目標を超長距離射撃(アウトレンジ)する機体を「狙撃用」と称して、運用されている、と考えた方がいいかもしれません。 モビルスーツの多くが頭部などにセンサー類を備えています。これとは別に、射撃武器の多くには照準具(ライフルスコープ)のような形状のセンサーを備えています。恐らくは、「ガンダム世界」でよく用いられるレーダーを無効化するという「ミノフスキー粒子」の影響で電子機器の性能が低下するなか、機体と武器の双方で光学照準によって、目標を捕捉し、計測誤差を減らすために多重化が図られているのでしょう。 モビルスーツによる狙撃を考察してみましたが、こう考えてみると、現実世界で生身の兵士が行う狙撃とはだいぶ異なるものといえそうです。加えて、「モビルスーツ」なるものを身近なものと比較して考えた場合、想像以上に巨大であると筆者は改めて感じることができました。※一部修正しました(4月27日10時50分)。

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