平成まで”鉄道税”が存在した!? 「列車に乗ると課税」のカラクリと顛末 増税反対で「焼き討ち」も

かつて、鉄道の利用に税金が掛けられていたことがありました。「通行税」と呼ばれる税金、どのようなもので、いつからいつまであったのでしょうか。

JR発足後も課税されていた「通行税」

 国鉄民営化によりJRが誕生した1987(昭和62)年4月の時刻表を開くと、グリーン料金の欄に「通行税1割を含みます」との文言があります。50代以上の人は懐かしいと思うかもしれませんが、40代以下にはほとんど知られていないこの通行税とは、一体どのような税金だったのでしょうか。

 似た名前の制度として、鉄道やバスなど地方交通の維持を目的として企業や市民に負担を求める「交通税」がフランスなど海外で導入されていますが、通行税は直接「利用者」から徴収する税金であり、使途が限定されない一般財源でした。 結論から言えば、通行税は1989(平成元)年4月の消費税導入時に廃止されました。以前は品目ごとに異なる税金がかけられていましたが、これを統合し、商品やサービスの支払いに「消費税」として一律割合で課税するように変更したのです。「品目ごとに異なる税金」とは、具体的には生活必需品以外の「ぜいたく品」に課された「物品税」、砂糖に課された「砂糖消費税」、トランプや花札、麻雀牌などに課された「トランプ類税」、また演芸やスポーツ等の入場料金に課された「入場税」「娯楽施設利用税」、電気料金に課せられた「電気税」、ガス料金に課せられた「ガス税」など、様々な個別の税があり、通行税もそのひとつでした。 廃止時点で通行税の対象となっていたのは、鉄道ではグリーン料金とA寝台料金、航空機は全ての航空運賃でした。これは「ぜいたく」なサービス利用者に、負担能力に応じて課税する「奢侈税(しゃしぜい)」と呼ばれる性質の税金です。 もっとも当時、既に航空機は一般的な交通機関となっており、運輸省(現・国土交通省)は以前から通行税からの除外を求めていました。消費税(当時3%)導入により通行税(10%、離島路線は5%)が廃止されたため、航空運賃は値下げされることになり、利用拡大を後押しした側面もあったようです。

課税対象と税額 時代とともに「千変万化」

 通行税の歴史は日露戦争中の1905(明治38)年1月、戦費調達のための臨時増税「非常特別税法」のひとつとして制定されたことに遡ります。制定当初の通行税は、座席の等級と利用距離に応じて決められており、例えば50マイル(約80km)未満は3等車が1銭、2等車が3銭、1等車が5銭、200マイル(約320km)以上では3等車が4銭、2等車が25銭、1等車が50銭でした。時代によっても異なりますが、2等車の運賃・料金は3等車の概ね2倍、1等車は3倍前後といった比率でした。 3等車とは一般車です。つまり山手線や路面電車など、日常的な利用でも一定額の課税が行われることになりました。東京の路面電車3社は翌年の1906(明治39)年に3銭均一から5銭均一への値上げを申請しますが、これに反対する市民が暴徒化し電車の焼き討ちを行う事態にまでなりました。 1910(明治43)年に通行税法が制定され、通行税は臨時増税から恒久税化されました。しかし都市部の近距離旅客が税収入の大部分を負担する公平性を欠いた税制という指摘があり、1926(大正15)年の税制改正で通行税法はいったん廃止されます。 しかし日中戦争が勃発すると1938(昭和13)年、再び通行税は戦費調達のための臨時増税として復活し、1940(昭和15)年に通行税法が再び制定されます。新たな通行税は短距離(1938年度は50km未満)であれば3等運賃は非課税とされました。 従来の通行税は3等、2等、1等運賃でそれぞれ異なる1kmあたりの課税額が決められていましたが、1948(昭和23)年の税制改正では等級の区別なく運賃に対して5%、急行・準急料金および寝台料金に対して20%を課税する形になります。2年後の1950(昭和25)年、3等車は寝台料金を除いて再び非課税とされた一方、1等・2等については運賃・料金の税率が全て20%に統一されました。つまり、運賃への課税率は元の5%から大幅に上昇した格好です。 1960年代に入ると通行税の性格が変わってきます。国鉄が1960(昭和35)年に1等車を廃止し、1等(旧2等)・2等(旧3等)の2等級制に移行すると、課税対象は1等運賃・料金のみとなり、さらに1962(昭和37)年の改正で10%に減税されました。 国鉄は続いて1969(昭和44)年に等級制を廃止して1等車をグリーン車、2等車を普通車に変更します。ひとつの運賃・料金体系にまとめられ、「グリーン車を利用する場合は別途グリーン券を購入する」という現在の形態に改められました。これにより統一された運賃、急行・特急料金は非課税となり、特別車両であるグリーン料金とA寝台料金(旧1等寝台)のみ課税の対象となりました。 こうして「ぜいたく税」としての役割だけが残された通行税ですが、先述のとおり現在は存在しません。しかし消費税率は現在10%、鉄道だけでなく全ての交通機関の利用に通行税が課されているような状況とも言えるでしょう。 

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