「ヤーポン法は滅びるべきと考える」 単位の勘違いであわや大惨事 事故は日本の”夢の国”でも

1790年3月、フランスでは、様々ある長さの単位を統一することを考えます。それがメートル法ですが、現在まで主流の単位ではない国がいくつかあり、それが原因でトラブルも起きています。

高度1万メートルでエンジンストップした理由とは?

 フランス革命直後の1790年3月、同国は国民議会議員のシャルル=モーリス・ド・タレーラン=ペリゴールの提案により、世界中に様々ある長さの単位を統一し、グローバルな商取引などができるようにしようと考えます。これが後のメートル法に発展していき、現在はほとんどの国で、メートル(m)、キログラム(kg)、電流のアンペア(A)など、「国際単位系(SI)」と呼ばれるものを使っています。

 しかし、アメリカはいまもメートル法を公式採用しておらず、ヤード・ポンド法が主流になっています。イギリスでも国外向けにはおおむねメートル法を採用していますが、国内向けにはいまだにヤード・ポンド法が残っており、アメリカとも数値が微妙に違うというややこしさになっています。 このヤード・ポンド法とメートル法の勘違いで起きた事故も多々あります、その中でも有名なものが通称「ギムリー・グライダー」と呼ばれる、「エア・カナダ143便滑空事故」でしょう。 同事故は、1983年7月23日、エア・カナダ143便(ボーイング767-200)が、ケベック州モントリオールからアルバータ州エドモントンへの飛行中に高度約1万2000m(4万1,000ft)でエンジンが停止した事故です。 ボブ・ピアソン機長とモーリス・クィンタル副操縦士はエンジンの再点火を試みましたが、全く反応せず、電源がなくなり空港に位置や高度を教えるトランスポンダーも停止したため、管制担当したウィニペグ・ジェームス・アームストロング・リチャードソン国際空港の管制官は、当時使われなくなっていた旧式のレーダーを引っ張りだして機影を追跡し続けたそうです。 パイロット側は現在の高度で飛ばせる距離を計算し、ウィニペグにたどり着ける可能性はないと算出。すぐに、カナダ空軍のギムリー基地を着陸地点にしようと考えました。 しかし、同地は民間の空港に変わっており、当日は自動車レースが行われていました。機長はグライダー経験があったため、エンジンに頼らない飛行技術を駆使し、無事に不時着。負傷者こそ出たもの、乗員乗客69人全員が生存しました。

原因は単純だがシャレにならないことだった!

 高度1万2000mで突如エンジンが停止した原因は事故調査の結果、ただの燃料切れという結論になりました。普通ならあり得ない過失は、モントリオールからエドモントンへのフライトに必要な給油量の計算の際に起きました。 ちょうど当時のエア・カナダではヤード・ポンド法からメートル法へ移行する最中でしたが、必要な燃料量を算出する際に、モントリオールでの燃料残量7682リットルを質量に換算する際に、リットルとkgによる比重0.803を用いず、ポンドによる比重である1.77を式に計算してしまったのです。 これにより、本来2万2300kgになるはずだった燃料が、1万116kgしか入っておらず、上空で燃料切れを起こしてしまい、墜落の危機となってしまったわけです。 他にも、人工衛星の火星探査機、マーズ・クライメイト・オービター通信途絶事故も有名です。単位換算ヤード・ポンド法で計算していたものを、探査機の航行担当チームがメートル法と勘違いし、高度を上げすぎたためにおきた事故でした。 また、日本では東京ディズニーランドでも。2002年にスペースマウンテンで走行中の後部車軸が破損し脱線した事故について、調査の結果、1995年9月に車両で使われる軸受の設計仕様がインチからメートルに変更されたものの、2002年10月に納入された車軸には古い図面が使用されていたため、事故が起きたと判明したことがあります。 ちなみに、日本のネットでは、「ヤーポン法は滅びるべきと考える」という「カルタゴは滅ぶべきであると考える」という共和制ローマ時代の政治家マルクス・ポルキウス・カト・ケンソリウス(大カト)の言葉を改変したネットスラングもあるほどです。 なお、イギリスではEU離脱を機に、標識などに伝統的なヤード・ポンド法を復活させようとする動きもあるようです。

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