アメリカ「本気モード」の象徴? ウクライナ供与の「架橋戦車」は戦況を一変させるか その威力とは

アメリカがウクライナへの追加援助の一環で「架橋戦車」なる装備を供与すると発表しました。この装備供与、実はかなり「アメリカの本気度」が見え隠れすると言えるかもしれません。

凹凸突破に不可欠な「変り種兵器」

 ウクライナ戦争も2年目に入った2023年3月3日、ドイツ・ショルツ首相との首脳会談に臨んだアメリカのバイデン大統領は、4億ドル(約550億円)の追加援助とともに、初めて「架橋戦車」をウクライナに提供すると約束しました。これは一体どのような装備なのでしょうか。

「架橋戦車」は欧米では「Armoured Vehicle Launched Bridge(AVLB)」で、直訳すると「橋梁展張装甲車両」となり、自衛隊では「戦車橋」と呼んでいます。 MBT(主力戦車)の車体を使うのが普通で、その上に金属製の折り畳み式の橋桁を載せて、戦車部隊と一緒に行動します。進撃を阻む河川がある場合や、道路に空いた砲爆撃の大きな穴、敵が掘った戦車壕に出くわした場合、長さ20m前後の橋を架けることができます。架設時間はわずか数分。味方の進撃をサポートする重要アイテムです。 橋梁の“キモ”は「何トンの重量まで通行できるか」で、その国のMBTの最大重量に合わせるのが普通です。NATO(北大西洋条約機構)には「MLC(Military Load Classification):軍事荷重区分」という基準があり、「MLC60」なら「最大荷重60トン」を意味します。 ちなみにNATO加盟国の軍用車両の前面には、「30」など黒字の数字を書いた黄色い丸マークがついています。これは「車両重量30トン」を表し、橋梁にも同様に「60」といった黄色い看板が掲げられていますが、これは「渡れる車両は60トン以下」という意味になります。

アメリカがもつ3つの「架橋戦車」とは

 最新の「ミリタリー・バランス2023年版」では、現在アメリカが保有する架橋戦車として以下の3種類、あわせて約360両が明記されています。・M60A1 AVLB(230両)M60A1戦車の車体がベースで、最初はM60系MBTに合わせMLC60だったが、M1エイブラムスMBTの出現に合わせ大半をMLC85に改修。橋梁長19.2m。・M104ウルヴァリン(40両)M1の配備に応じ前作の後継としてM1A2の車体をベースに開発。MLC70で橋梁長26mを誇るが、単価が高騰し少数で打ち止めに。・M1074JAB(93両)M1A1にM1A2のサスペンションを移植した車体がベースで、ウルヴァリンの代替として単価圧縮を重視し2024年まで計168両を製造する計画。MLC95、橋梁長18.3mでJABは「Joint Assault Bridge:統合突撃橋」の略。最前線での活用を重視し、車体側面に反応装甲ブロックや同底面に対地雷用の増加装甲を装着可能。 このうちウクライナに供与されるのは、どの車種なのでしょうか。実はこれが「悩みどころ」でもあり、可能性としては3パターンが考えられます。

供与される可能性のある車種は?

 まずは「M60A1 AVLB」の場合で、旧式ながら台数も多いため“在庫処分”も兼ねれば合理的です。最新のM1074JABが間もなく全数揃い、交代する形で本車の相当数が退役の見込みなので、この一部を送るのかもしれません。

 問題は「速度」と「メンテナンス」です。先にNATOがウクライナへの供与を決めた「M1」(米)、「レオパルト2」(独)、「チャレンジャー2」(英)の西側MBT“三羽ガラス”のうち、M1とレオパルド2ははともに時速70 km超という機動性を発揮します。 対してM60A1 AVLBは時速50km弱であまりにも遅く、仮にウクライナ側が西側MBTを駆使した速攻戦を想定した場合、架橋戦車が進撃の足を引っ張ってしまい本末転倒です。メンテナンス面でも、本車の車体はM1系列と互換性に乏しく、交換部品や保守・点検も独自に準備しないといけません。 次の「M104ウルヴァリン」ですが、ある意味「計画倒れ」の兵器という背景から台数が少なく、考えようによっては、これを供与しM60A1 AVLBとの二枚看板に絞った方が何かと都合がよさそうです。車体はM1A2なので、現地での整備も楽です。ただし最も高価で、しかも橋梁長が26mと最長なので、やはり米陸軍サイドでは手放したがらないかもしれません。 最後の「M1074JAB」ですが、同じく車体がM1系列なので整備は楽です。しかし、現在も製造が続くある意味アメリカ陸軍にとっても「最新兵器」なので、やはり「手放したくない」と考えるのが本音ではないでしょうか。

アメリカの「本気モード」の意思表明?

 西側MBT“三羽ガラス”と比べると、架橋戦車は一見「地味な脇役」で、大手メディアもその重要さにあまりピンとは来ていないようです。 しかし世界の軍事関係者の間では「いよいよアメリカが本気モードに入ったことを示唆するアイテムかもしれない」と深読みする向きもあります。 というのも、ウクライナのイメージは「広大な平坦地で戦車部隊の進撃には理想的」ですが、実はよく見ると細い小川や用水路、運河が無数にあります。 もし西側MBT“三羽ガラス”を単に防御に使うだけであれば、守備する場所は概ね決まるので、架橋戦車が急に必要となる場面はそう多くはありません。しかし、ウクライナ軍が「スピードが命」の電撃戦のような進撃を考えている場合は、事前に橋を落とされた川や戦車壕を素早くクリアすることが重要で、架橋戦車は必須なわけです。 さらにウクライナはロシア同様、旧ソ連のMBT開発基準「重量50トン以下」を踏襲しているため、既存の軍事資源やインフラも50トン以下の基準で造られています。大半の一般道路の橋梁は、50トン以上の戦車が渡れば落ちてしまうのです。残念なことに、西側MBT“三羽ガラス”はどれも60トン超のため、通行するなど論外です。こうした事情も、架橋戦車の供与が急がれた一因のようです。 果たしてロシア側は架橋戦車の供与という“シグナル”をどうとらえ、どのような対応策で臨むのでしょうか。 

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