ヨガで唱える聖音オウムとは?オウム真理教の犯した宗教的大罪とは?

ヨガをはじめスピリチュアル界隈でよく聴かれる聖なる音「オウム」。この短い一言の中に深遠な意味が込められている。あるイメージが付いてしまったことであらぬ誤解を植え付けられてしまった聖音の意味を学ぶ。

■聖なる音

ヨガ教室などでは練習の最後に「オーム」を唱えたりするが、いわゆる「マントラ」と呼ばれるインド伝来の呪文には「オウム」(オーム/オーン)という言葉が付くことが多い。「オウム」はインドでは古代より聖なる音とされている。「ヨーガ・スートラ」には「イーシュヴァラは時間を超越しており、太古の師にとっても師でもある。 これを音で表したものが、聖音オームである。 その意味をよく念想し、繰り返し唱えるべきである」とある。イーシュヴァラとは、ヒンドゥー教の最高神シヴァを指すが「宇宙意識」「大いなる存在」といった概念にまで広がった。インドの神秘思想において「オウム」とは宇宙そのものを音声化したものなのである。

■「オウム」の意味

「オウム」の音は「OM」であるが、正確には「AUM」(ア・ウ・ム)であり、「アウ・ム」となり「オーム」、「オウム」となった。A(ア)は始まり、Mは「ン」(厶)は終わりを意味し、宇宙のすべてを包み込んでいるとされる。
始まりを意味する「ア」について真言密教では「阿」の字を当て「阿字観」「阿息観」などの瞑想技法を実践している。阿字観はサンスクリット文字の「阿」の字をイメージして「阿」と一体になるように瞑想する。阿息観は「ア〜」と震えるように声を出す瞑想法である。密教が「阿」にこだわる理由について空海は、「阿字はすべての文字の母であり、すべての声の本体、つまりすべての存在の源である」「最初に口を開いて音を出せば、まず阿の声が出ます。もし阿の声が無ければその他のすべての言葉は存在しない」と述べている(吽字義)。
また「南無阿弥陀仏」「南無妙法蓮華経」など仏教の念仏や題目には「南無」の二文字が頭に付く。真言宗では「南無遍照金剛」、禅宗は「南無釈迦牟尼仏」である。南無とは「帰依する」という意味で「南無釈迦牟尼仏」なら釈迦に帰依するという意味になる。「南無」はサンスクリット語の「ナマス」(礼拝/敬礼)から来ており本来「オウム」とは関係ないはずだが、「NAM」は母音「A」子音「M」が入っているのは偶然だろうか。少なくとも取り入れた仏教者たちの感性に触れたことは間違いない。なお、真言密教の「唵」は「オーン」、「阿吽」は「アウム」そのままである。またキリスト教の「アーメン」にも「A」「M」と同じ音が入っている。音の仕組みは同じである。各宗教の黎明期に採用された聖なる言葉の根底には聖音「オウム」が流れているといえるだろう。

■オウム真理教の罪

「オウム」といえばオウム真理教について触れないわけにはいかない。「オウム」と聞けばほとんどの人は、その名を連想するのではないだろうか。オウム真理教が犯した罪には2つの種類がある。ひとつはもちろんテロや殺人などの社会的・人道的犯罪。もうひとつは宗教的な罪である。オウムは教団内でテロや殺人行為を指すときに「ポアせよ」「ポアする」という隠語を使用していた。ポアは意識を肉体から転移させるといわれるチベット密教の奥義である。オウム真理教はそれを本来の意味からかけ離れるどころか最悪の意味に転嫁してしまった。また「アーナンダ」「マンジュシュリー」など仏教の聖人・菩薩などの名を騙ったいわゆる「ホーリーネーム」も話題になった。そして何より「オウム真理教」なる宗教名である。聖なる音「オウム」をテロ犯罪集団の略称にしてしまったことは神に対する冒涜の極みであり、宗教的大罪といえる。

■最高の聖音

本来の「オウム」はイーシュヴァラ(最高神)を音にしたものであり、その功徳も比類がない最高の聖音とされる。阿息観のように声を震わすように唱えることで宇宙と一体になれるともいう。宇宙と一体などというと、これはこれで胡散臭い響きではあるが、現代のヨガやマインドフルネスなどの分野においても「AUM」の響きは深い精神状態、変性意識状態に入りやすい音声であるようだ。あくまで想像だが、先人は瞑想を追究する過程において「AUM」の組み合わせに優れた効力を発見し、むしろそのことで「オウム」を神聖視したのかもしれない。

■宇宙に触れる

「オウム」(オーム/オーン)を生死に関わる状況、恐怖・不安に陥ったときに唱えてみるのもいいかもしれない。この聖音は様々な宗教に共通して存在する。特定の宗教を超える存在ということは、特定の信仰にこだわる必要はないともいえる。これほど印象を貶められた言葉もないが偏見を捨てて、宇宙そのものと呼べるような超越的な何かを捉えたであろう先人の叡智に触れてもらいたい。

■参考資料

■スワミ・サッチダーナンダ著/伊藤久子訳「インテグラル・ヨーガーパタンジャリのヨーガ・スートラー」めるくまーる(1989)
■空海著/加藤精一編「即身成仏義・声字実相義・吽字義 ビギナーズ 日本の思想」角川ソフィア文庫 (2013)

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