ファストフードの元祖? 秋葉原・御徒町駅の「ミルクスタンド」なぜ生き残ったか 外国人もwow!

JR秋葉原駅ホームにある「ミルクスタンド」には、全国各地の美味しい牛乳が並び、“牛乳好きの聖地”として注目を集めています。店舗を運営する大沢牛乳の社長の話を織り交ぜつつ、人気の秘密に迫ります。

懐かしの「ミルクスタンド」 秋葉原の朝

※本記事は『駅食大全2023 駅弁・駅そば・駅ナカグルメのすべて!』(「旅と鉄道」2023年増刊4月号)掲載の内容を再編集したものです。 JR秋葉原駅の総武線6番ホーム。乗降客が行き交うホームの一角に、「ミルクショップ酪」という売店があります。

 商品のラインナップは、ビン入りの牛乳を中心とした約50種類の飲料と、菓子パンやおにぎりなど。カウンターで商品を注文すると、販売員が冷蔵庫から牛乳を取り出し、お客はそれを店頭で飲み干します。朝の通勤・通学時間帯では、あんパンを頬張りながら牛乳を流し込む人など、わずか10数秒の“エネルギー補給”を済ませ、お客が次々に入れ替わります。「あんパンとセットの“あんパン定食”があってね……」と販売員が教えてくれましたが、メニューとして店頭には表示されていません。常連だけが頼む“裏メニュー”になっているようです。販売員はベテラン、精鋭ばかり。常連が近づいてくると、言われなくても商品を用意することもあったり、ホット牛乳の温め方を、お客の好みに合わせていたりする販売員もいるのだとか。 こうしたミルクスタンドは、かつては首都圏の主要駅に見られ、JRだけでなく私鉄でも営業していました。1966(昭和41)年の調査によると、山手線の駅に12店、京浜東北線の駅に7店など、ミルクスタンド専業店が首都圏に24もあったそうです(製パン情報誌『Pain』66年8号)。

牛乳と菓子パンで、どう戦ってきたのか

 そうした駅のミルクスタンドのほとんどが、自動販売機の普及などで廃業した現在、同様の形態のミルクスタンドは全国でも、この「ミルクショップ酪」を経営している大沢牛乳の店舗しかないようです。大沢牛乳は1950(昭和25)年創業で、秋葉原駅に2店舗、御徒町駅に1店舗を展開しています。 店先には、商品写真とともに「まろやかでコクのある風味!」などの宣伝文句を入れた短冊がびっしり。ミルクスタンドと銘打っているだけあって、大手メーカーの乳飲料のほか、今まで見たこともない商品も多く、「地域限定生産」のレア商品も取り揃えています。 当初はメジャー会社の乳飲料のみのラインナップでしたが、「商品を置いておくだけでは、だんだん売れなくなってきてね……そんな状況のなかで生き残るために、全国各地から本当に美味しい商品を仕入れるようにしました」と、社長の大沢一彦さんがかつてを振り返ります。 2000年頃から経営転換を図り、ご当地牛乳の取り扱いを開始。これが、現在の“牛乳好きの聖地”という特別なミルクスタンドとなる土台となります。

 とはいえ当初は、苦労の連続だったといいます。乳業メーカーとのコネもパイプもないので、ラインナップ拡大のためには大沢社長が自ら動き、電話攻勢などで口説き落とすしかありません。「現地のメーカーさんと掛け合って、こちらが高額な配送料を負担してでも、その商品を置いて販売しているのです」(大沢社長)。 その甲斐もあって、現在は全国15社ほどの牛乳メーカーとの強固なパイプを築き、地方の名品を取り揃えることに成功。福島の酪王牛乳、千葉のかずさ牛乳、岐阜県の飛騨牛乳、高知のひまわり牛乳……基本的にはその地方でしか味わえないローカル牛乳の名品が、ここでは一度に味わえます。

フルーツ牛乳、コーヒー牛乳に外国人ビックリ!

「自分がよいと思ったものを置いているだけ」と大沢社長は謙遜しつつも、「かなり魅力的な商品が入っているはずなので、興味を持っていただければ、この店のありがたみがわかっていただけるかと思います」とラインナップの充実ぶりには胸を張ります。最近も、鳥取県の大山乳業の白バラ牛乳をラインナップに加えるなど、店の進化はまだまだ止まりません。 注目の商品は、九州の阿蘇から直送される「阿蘇の雫」。牧場内でボトル詰めしたこだわりの牛乳で、濃厚ながらもスッキリした味わいが特徴です。「入荷するのは、1か月に2日だけ。1本220円でも、すぐに売り切れてしまうのです」(大沢社長)。東京で広めるという役割もあって、大沢牛乳では特別価格で販売しているそうです。入荷情報は、大沢牛乳のツイッターで告知されます。 近年は、秋葉原の名物店として注目を集めることも増え、中国や韓国からの外国人観光客の間でも大人気になっています。「隣の御徒町駅近くにあるディスカウントストア『多慶屋(たけや)』が、中国・韓国の観光客の人気スポットになっていて、多慶屋とともに御徒町駅にある大沢牛乳のミルクスタンドで牛乳を飲むのが、観光ルートの定番になっているらしいのです」(大沢社長)とのこと。 これほど多様な牛乳を作るのも日本ぐらい、なのだそう。「バナナやフルーツ牛乳、コーヒーフレーバーなど、味付きの牛乳がいろいろありますからね。そういうものが珍しいようです」と大沢社長は分析しています。 乳飲料の販売だけでなく、大沢牛乳では試飲会やイベントを定期的に実施してきました。たとえば、秋葉原のアイドルグループ・AKB48の人気イベントにちなんだ「ご当地牛乳総選挙」は、2019年の第6回まで毎年開催。利用客がお気に入りの牛乳を投票し、人気ナンバーワンを決めます。「若い方には牛乳を飲む習慣がないので、その機会を増やそうと始めました。現在は新型コロナウイルスの影響で中断していますが、状況が許せばという状況で、今年こそはやりたいと思っています」(大沢社長)

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