SLブーム火付け役“SL無し”でもなぜ人気 「SLやまぐち号」今の観光列車との決定的な違い

40年以上にわたって運行が続く観光列車「SLやまぐち号」。現在は車両故障のため、牽引車がディーゼル機関車に変更され「DLやまぐち号」になっていますが、その人気は衰えません。何が人々を引き付けているのでしょうか。

SL復活運行の草分け

 明治の鉄道開業から100年近くに渡って日本の鉄道を支え続けてきた蒸気機関車(以下SL)は、今でも全国10か所以上で車両の動態保存・運行が続けられています。その中で、大井川鐵道(静岡県)と共に全国でSLの復活運行の草分けとなったのが、JR山口線で運行されている「SLやまぐち号」です。  この列車が運行を開始したのは1979(昭和54)年。山口線でSLの定期運用が消滅してから、わずか4年後に運行を開始し、それから44年の月日が流れようとしています。なぜ、これほど長く人気を保ち続けているのでしょうか。

「SLやまぐち号」の魅力は、何と言っても「山間部の峠越え」にあります。この列車が走行する山口線 新山口~津和野間(62.9km)に寄り添うように、椹野川(ふしのがわ)・阿武川(あぶがわ)・津和野川などが流れています。 山口線は2つの分水嶺(川の流域を分ける山の尾根)を越えて勾配を登ったり降ったり。5両の客車と炭水車(石炭と水を補給)などを牽引するSLはもうもうと煙を上げ、20~30km/hほどで峠を登っていくのです。 しかし近年では、牽引機であるC57 1の車輪を回すシリンダーの破損などで走行不能となることもあり、2022年5月には炭水車の台車に亀裂が生じ、SLの運行じたいが不可能になっています。それ以降、ディーゼル機関車DD51の牽引による「DLやまぐち号」として運行していますが、主役となる蒸気機関車を欠いた今でも乗客で溢れています。

“DL”になっても変わらない「普通の列車感」だがそれがいい!

 運行日は、午前に新山口駅を出発する「DLやまぐち号」の入線を眺めるため、一番ホームで待ち構える人々の多さは変わらず。実はこのDL(DD51)も今や全国で残り10両、うち今でも動いているのは「DLやまぐち号」と鳥取・後藤操車場の構内入替用などに限られます。ディーゼル機関車はSLと違って保存・復活運行されることは少なく、これはこれで貴重です。 乗車した2022年11月の休日は、1週間前にはすでに窓側の席が埋まるほどの人気ぶり。そして車内では子連れの家族や友人たちのグループが目立ちます。3世代でボックスシート(4人掛け)2つに分かれて乗り込む大家族の姿は、40年以上にわたって運行を続けてきたこの列車ならではでしょうか。なお車内では食事の販売がないため、新山口駅で販売されている「SLやまぐち弁当」が飛ぶように売れていきます。 新山口駅を出た「SLやまぐち号」は最初の20分ほどは市街地を走り、山口駅を過ぎると山岳部へ。このあと2時間近くは山の中をひたすら走り抜けていきます。

 近年の観光列車は、各駅で長時間停車や地元の人々による熱烈な歓迎、産品の販売などを行いますが、この列車は目立った歓迎はなく、途中の長時間停車も仁保で6分、地福で14分のみ。特別なものは何もなく、至って普通の観光列車の雰囲気をゆるゆると楽しむ事ができるのです。険しい峠の先に突然見えてくる街を観察するのも良し、徳佐駅周辺に広がるりんご園を眺めるのも良し。 車内は3号車ラウンジに機関車の運転台レプリカなどが展示されているほか、売店では石炭をイメージして焼き上げた「石炭ワッフル」や地ビールの購入も可能。2018年にリニューアルが行われたばかりの「レトロ客車」車内は、携帯を充電するコンセントもついて、まったりと時間を過ごすには最適です。

山口県・島根県 どちらにも貴重な観光列車

「SLやまぐち号」の終点・津和野は島根県西端の一大観光地として知られ、江戸時代に津和野藩の城下町であった街並みを散策する事ができます。 折り返しの新山口行きが発車するまで2時間以上確保されており、ゆっくり食事をとったり、レンタサイクルで街を散策したりできます。「SLやまぐち号」は“険しい山を走る列車の旅”“津和野での観光”をセットにした、効率よく楽しめる観光列車と言えるでしょう。また津和野で下車して、路線バスやレンタカーで萩方面に向かう人も目立ちます。 しかし、この「SLやまぐち号」「DLやまぐち号」も、前述の車両故障だけでなく災害にも悩まされてきました。特に2013年7月の集中豪雨では山口線そのものが1年間に渡って運休。津和野町の観光に大きなダメージがあったといいます。それでも、翌年の再開後にほどなく客足が95%程度にまで回復し、毎年のように乗車する人々もすぐ戻ってきたそうで、根強い支持が伺えます。

 現在はSLをメンテナンスできる業者も限られ、各地でSLの運行終了が発表されるなど、その環境は年々厳しさを増しています。しかし40年以上ものあいだ「普通の観光列車」として毎年訪れる人々を集め続ける「SLやまぐち号」は、「DLやまぐち号」になっても十分に楽しめそうです。※一部修正しました(2月28日11時27分)。

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