さらば「ワイドビュー」特急 キハ85系の引退迫る JR東海入魂の快適性 新型にも劣らず!

2023年中の引退が発表されているJR東海キハ85系は、JRグループ初の「国鉄形式の派生型ではない」特急気動車でした。眺望性に優れた構造は列車名に「ワイドビュー」と冠表記を加えたほど。どんな車両だったのでしょうか。

コンセプトは「嬉しさ」「ニューソフト」

 JR高山本線の特急「(ワイドビュー)ひだ」、紀勢本線の特急「(ワイドビュー)南紀」で使われてきたキハ85系。「ひだ」は2023年3月17日に、「南紀」は6月30日にそれぞれ定期運行を終了します。引退を前に、改めてその生涯を振り返ります。

 キハ85系はJR東海が所有する、1989(平成元)年に登場した特急形気動車です。1987(昭和62)年のJRグループ発足以降、国鉄時代の形式の派生型は登場したものの、全くの新形式である特急形気動車は初めてであり、注目を集めました。 キハ85系が置き換えることになった前代のキハ82系は、低出力で車体も重く、スピードアップには限度がありました。そうした中、JR東海は「観光線区にマッチし、話題性や魅力のある車両」が必要と考え、キハ85系をデザインしたのです。 投入が予定された高山本線は観光客が多く、新型車両は豊かな自然の中を走ります。トータルデザインのコンセプトは「嬉しさ」「ニューソフト」で、エクステリアデザインは「自然界にある暖かな曲線」「飛騨の栗のまろやかさ、南紀の二枚貝の豊かな局面」「未来を想像させる宇宙感覚のフォルム」をモチーフとして、暖かさ、ワイド感、高速感を打ち出したそうです。 そうしたコンセプトを元に、インテリアデザインとして「オープン感覚のある明るい室内」「高級リゾート感を持つ、クックな仕上がり」「快適な雰囲気を醸し出すための、ディテールへの配慮」が主眼に置かれました。

高山本線のスピードアップに貢献

 具体的には、座席部分を通路より20cm高めたハイデッカー構造とし、窓の縦幅も95cmと非常に大きく取りました。大きな側窓にはブロンズ着色曲面ガラスを採用しています。座席間隔は、キハ82系の91cm(普通車)から9cm拡大した100cmで、これはJRグループの特急普通車としては、現行でも最大級の広さです。なお、普通車も含めて床には通路と座席部分の双方にカーペットが敷かれ、高級感を演出しています。

 また、デッキ部分も「ホテルのロビー」をイメージしています。床には格子模様の敷物が敷かれ、天井にはダウンライトが設けられています。路線の性質を考慮して、スキーやゴルフバックを置ける荷物置き場もあります。また、情報化時代に対応し、LED式の車内情報案内装置がデッキ自動ドアの上に設けられました。 化粧室も「リゾートホテルの化粧室」をイメージ。洗面室は人工大理石と陶器を使用し、タイル張りもなされたゴージャスなデザインです。グリーン車の洋式トイレには便座カバーが設けられ、自動的に巻き取られるものが設置されました。 車両性能としては、高い最高速度と勾配区間に対応するために、中速域で大きな牽引力が得られることが重視されました。車体はステンレスを用いて軽量化が図られ、エンジンにアメリカのカミンズ社が開発した(製造はイギリス)350馬力の機関を2台搭載し、最高速度は当時の特急電車に匹敵する120km/hでした。 この結果、180馬力エンジンが2台で鋼製の車体だったキハ82系と比較して、重量あたり2倍以上の馬力数となりました。変速機も3段6要素の直結2段式を採用したことで、これまでの気動車では見られない優れた登坂性能や運転操作性も実現しています。高山本線のスピードアップに貢献し、それまで2時間50分かかっていた名古屋~高山間を、当初は2時間半、その後は2時間9分まで短縮したのです。

なくなるのが惜しまれるキハ85系の座席

 また、冷房装置は駆動機関直結式となり、これまでの気動車のように「電源車」から給電されるシステムではなくなりました。この結果、どんな編成を組んでも走行性能を維持できるようになり、編成の自由度が高まっています。なお、連結可能な最大両数は10両です。 キハ85系は、ウリであった眺望の良さが印象に残っている人も多いでしょう。側窓だけでなく運転台越しの前面展望も考慮されており、使用列車は「(ワイドビュー)ひだ」「(ワイドビュー)南紀」と区別されていました。

 特筆すべきはグリーン車です。当初はキロハ84形が使われ、2+2列で座席間隔116cm、半室グリーン車でしたが、後に「(ワイドビュー)南紀」用として、前面展望が可能かつ1+2列、座席間隔125cmのキロ85形も投入されました。 なお「(ワイドビュー)南紀」のグリーン車利用が低迷したことで、このキロ85形は「(ワイドビュー)ひだ」に転用されています。その結果として、キロハ84形とキロ85形が同じ編成に連結されることがよくありました。 どちらに乗ってもグリーン料金は同額なので、座席ファンである筆者(安藤昌季:乗りものライター)は、上り下りで乗り比べたことがあります。座席のゆとりは、1+2列のキロ85形が上回りますが、フィット感や展開できるフットレストは、2+2列のキロハ84形の方が上。ただどちらもグリーン料金を徴収するに値する、快適な座席でした。 冒頭で述べた通りキハ85系は順次引退し、新型HC85系で置き換えられます。ただHC85系と比較しても、キハ85系の座席は快適性で劣らないものです。 HC85系は堅めでホールド感を重視したものですが、キハ85系は柔らか目でクッション性に優れたものです。どちらがよいかは好みが別れますが、筆者はキハ85系派です。ただし、HC85系はグリーン車座席にヘッドレストが設けられており、2+2列のグリーン車の中では最上位の快適性だと思います。 なお引退後も、当面は臨時列車や観光列車で活躍するようです。

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