戦車じゃないよ「戦車駆逐車」ウクライナへ供与する仏製AMX-10RC 戦車より使える?

フランスがウクライナへ供与を明言した「軽戦車」。一部報道では装輪式のAMX-10RC戦車駆逐車だといわれています。戦車よりも防御力や悪路走破性などで劣りますが、それでも使い道はあるのでしょうか。

半世紀前に誕生した快速戦闘車両

 フランスは2023年1月4日、ウクライナに対してAMX-10RC装輪戦車駆逐車を供与すると発表しました。供与される台数については、いまだ不明ですが、肝心のウクライナ軍は、本車をどのように使おうと考えているのでしょうか。 そもそも本車は、その構造から時に「装輪戦車」と呼ばれることもあります。フランス語で戦車はchar(シャール)といいますが、本車の末尾に付与されたRCの略号はRoues-Canon(ルーカノン)の頭文字で、直訳すると「車輪付き砲」であり、これを意訳すると装輪戦車駆逐車となります。つまり、実体はどうあれ、「言葉遊び」が好きな政治的には、本車は名称のうえでは「戦車ではない」と強弁することも可能です。

 AMX-10RCの開発が始まったのは1970年。フランス陸軍は、まだ他国の陸軍が戦車並みの大口径砲を備えた装輪装甲車(あるいは装輪戦車)に着目していなかった時代に、本車の開発を開始しました。東西冷戦が続く当時は、各国ともMBT(主力戦車)の性能向上に躍起となっており、タイヤ駆動の装輪戦闘車両を開発したとしても、その武装は小口径の機関砲や発射時の反動が少ない対戦車ミサイルを搭載するケースがほとんどであり、本車のように当時のMBTとほぼ同レベルの威力を持つ105mmライフル砲を搭載した装輪戦闘車両は皆無でした。 では、なぜフランス陸軍が戦車並みの火力を持つ装輪戦闘車両を求めたのかというと、その理由はアフリカに派遣している部隊や、ヨーロッパ本土の偵察部隊に、高い機動力と強い火力を与えるためでした。 たとえば、攻防どちらの場合でも、単に偵察するのではなく敵の戦力を探ろうと、少しだけ攻撃を加えてその反応をみる偵察方法、いわゆる威力偵察をしたり、防戦時には敵の進攻に際して味方のMBTより先に展開し、MBTの到着までの間、MBT並みの火力を用いて阻止戦闘を行ったり、といった用途が考えられていたようです。

戦車と同じ構造だから高度な教育訓練も必要なし

 こうしたコンセプトのもとに誕生したAMX-10RCは、1971年に最初の試作車が完成し、1978年から量産がスタート。これまでに輸出された分も含めて約460両が製造されています。ただ、開発開始の時点から半世紀あまりが経過しており、部隊運用もすでに約40年が経っているため、性能的にも陳腐化していることは事実です。 途中で性能向上を目的にした改修なども行われたとはいえ、古い車両です。ゆえに、当のフランスも、後継として「ジャグア」偵察戦闘車の導入を2022年から開始しており、2030年までにAMX-10RCは全車退役する計画でした。

 そういったなか、2022年2月にロシアのウクライナ侵攻が始まり、今回ウクライナへ複数台が供与されることになったのです。つまり端的にいえば、数年後には退役する車両をウクライナに供与するという、旧式装備の引き渡しともとれる話といえるでしょう。 ただ、ウクライナにおける戦闘の様相を考慮すると、逆に本車が適しているとも筆者(白石 光:戦史研究家)は考えます。なぜなら、ひとつの理由として、本車がNATO標準弾薬を発射可能な105mmライフル砲を搭載しているからです。 2023年現在の目で見ると、105mmライフル砲は、より強力なNATO標準の120mm滑腔砲と比べて確かに見劣りします。しかし、それでも現用のロシア戦車の撃破は可能です。この点では、35mm機関砲や40mm機関砲より有用です。 また、砲は戦車兵が扱う限りにおいて対戦車ミサイルほど教育訓練に時間を割く必要がなく、戦車と同じように射撃することが可能です。そのうえ、ロシア戦車も含む昨今のMBTは、単純に装甲を分厚くする徹甲弾への対策よりも、対戦車ミサイルの弾頭である成形炸薬への対策に力を入れる傾向があるため、「シンプルな徹甲弾(運動エネルギー弾)」が逆に効果的だといえるでしょう。

世界のトレンド「装輪戦闘車両」の運用に影響も

 なお、ウクライナでは晩秋と春先に、降雨や雪解けの影響で「ラスプーチツァ」と呼ばれる「泥の海」が出現します。これは戦車など履帯(いわゆるキャタピラ)で走る装軌式車両でも踏破に苦労するほどのものであるため、装輪式のAMX-10RCでは、一層走行に苦労するのではと推察できます。 確かにこればかりは装輪式の弱点であり、だからこそ装軌式が誕生したともいえるのですが、この点はおそらく、AMX-10RC持ち前の良好な不整地踏破能力と、「ラスプーチツァ」の土地で長年培われてきたウクライナ軍なりの泥濘走破のノウハウなどで、いくぶんかはフォローできるのではないかと考えられます。

 現在、ウクライナ軍は防戦だけでなく、一部地域ではロシア軍に対して攻勢に出ています。つまり、これまで述べたように威力偵察の機会や、いわゆる「火消し」と称される機動防御の機会が、防戦一辺倒だった昨年よりも増えていると考えられます。加えて、ロシアのMBTは運用上の失敗や構造上の問題などもあって案外、「打たれ弱い」ことも判明しています。 そのようななか、戦場においてフットワークが軽く(機動力が高く)、威力のあるパンチ(高い攻撃力)をくり出せる本車は、MBTより防御力に劣るとはいえ、さまざまな局面で有用だと筆者は考えます。 今後、ウクライナ軍に配備されたAMX-10RCがどのように活用されるのか、その戦い方次第では大口径砲装備の装輪戦闘車両の有用性を切り拓くという観点から、世界の軍関係者の注目を集めることもあるのではないでしょうか。そして場合によっては、日本の16式機動戦闘車の戦術にも影響を与えるかもしれません。

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