
ゼロエミッションの実現に向けて進む海運業界。2023年はいよいよ次世代燃料の普及を見据えた新造船が登場します。今年に竣工予定の注目すべき新造船を5つ紹介します。
将来に備えて「二元燃料エンジン」搭載
海運業界がGHG(温室効果ガス)を排出しないゼロエミッション船の実現に向けて舵を切る中、2023年はいよいよ次世代燃料の普及を見据えた船舶が出てきます。今年に竣工が予定されている“時代を変える”船を5つ紹介します。
新型VLGC(2023年中)
商船三井グループのフェニックスタンカーズが名村造船所に発注した、LPG(液化石油ガス)を燃料として使用できるVLGC(大型LPG・アンモニア運搬船)は、将来的にアンモニア燃料船への改修を視野に入れた設計となっています。2隻発注されており、船型は8万7000立方メートル型と、アンモニアを輸送可能なVLGCとしては世界最大規模です。 同船にはLPGと重油の両方に対応可能な2元燃料(DF)主機を搭載。LPGを燃料として使用する場合、従来の重油燃料船と比べて排気ガス中の硫黄酸化物(SOx)を約90%、二酸化炭素(CO2)を約20%、窒素酸化物(NOx)を約20%削減できると見込まれています。三菱造船と技術提携する名村造船が伊万里事業所で建造しており、2023年以降に順次、引き渡されます。 アンモニアは次世代のクリーンエネルギーとして、石炭火力発電所における混焼利用や、水素キャリア(水素の運搬に適した物質)としての活用などを中心に、今後、大規模な需要が見込まれています。日本郵船や川崎汽船が川崎重工業にアンモニア輸送が可能なVLGCを相次いで発注しているほか、新船型としてアンモニア燃料アンモニア輸送船の開発も、日本郵船や商船三井が行っています。
EVハイブリッド船(2023年4月竣工予定)
2022年に就航した世界初のピュアEV(電気推進)タンカー「あさひ」(旭タンカー)に続き、木質バイオマス燃料を運ぶ499総トン型の次世代EVハイブリッド船の竣工が2023年4月に予定されています。「あさひ」を手掛けたe5ラボと三菱造船が普及を目指す標準ハイブリッド電気推進船「ROBOSHIP」を適用。設計は三菱重工業グループの三菱造船、建造はエクセノヤマミズグループの本田重工業がそれぞれ手掛けています。 EVハイブリッド船は化石燃料を必要とする従来のディーゼル主機関に代わり、大容量蓄電池(容量440kwh)と発電機(容量500kw×2基)のハイブリッドでPM(永久磁石)モーター2基を駆動させる電気推進システムを搭載。バッテリーからの給電で航行ができるため、出入港や離着桟、荷役といった作業時には蓄電池に貯めた電気を使用することにより、港内作業の完全ゼロエミッション化を目指しています。 将来的には発電機の燃料をLNG(液化天然ガス)や水素、アンモニア、合成燃料などに切り替え、航行を含む全てのオペレーションのCO2フリー化を図っていく予定です。 竣工後は旭タンカーを船主に、上組海運が運航を担い、神戸港から相生バイオマス発電所まで木質バイオマス燃料の輸送を行います。
液化CO2輸送船(2023年度後半竣工予定)
三菱重工業の下関造船所江浦工場では、LCO2(液化CO2)輸送船が建造中です。LCO2タンク容積は1450立方メートルと大きく、世界初のCCUS(CO2回収、輸送、利用、貯留技術)を目的としたLCO2輸送船として、2023年度後半の竣工を計画しています。 同船は三菱造船が内・外航船の船舶管理などを手掛ける山友汽船から受注したものですが、まずNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の実証事業としてエンジニアリング協会が借り受け、京都の舞鶴発電所で回収したCO2を、貯留地である北海道の苫小牧まで輸送します。この実証には川崎汽船が参画しており、輸送・荷役時の安全性評価と技術的なガイドラインの策定に取り組むとのことです。 また三菱造船は、CCUSバリューチェーンの構築に必要な、容量3万立方メートル以上の大型LCO2船への搭載を想定した球形カーゴタンクシステムや、5万立方メートル型「アンモニア・LCO2兼用輸送船」を商船三井と共同で研究しています。
メタノールバンカリング船(2023年末竣工予定)
佐々木造船(広島県大崎上島町)では2023年末の竣工を目指して、シンガポール初のメタノールバンカリング船を建造しています。船型は新開発となる4000重量トン型2基2軸のケミカル船で、同国の燃料供給事業者グローバルエナジートレーディング(GET)から受注しました。2024年にはバイオ燃料とメタノールを含む、あらゆる種類の燃料を供給する予定です。 メタノールは、CO2を分離・回収して再利用する技術によって人工的に製造される「カーボンリサイクル燃料」であり、GHG排出ゼロに向けた選択肢の一つとして位置づけられています。たとえば、世界最大規模のコンテナ船社APモラー・マースク(デンマーク)は、メタノール燃料エンジンを搭載した1万6000TEU型コンテナ船を2025年までに最大12隻導入することを明らかにしているほか、日本企業でも日本郵船や商船三井がメタノール輸送でメタノール燃料船を導入しています。 こうした動きから、世界でも有数の船舶向け燃料補給拠点となっているシンガポールで、メタノールバンカリング船が必要となっているわけです。佐々木造船で建造中のバンカリング船は重油焚きですが、同社はメタノール燃料船や水素燃料船も計画しており、これからが楽しみです。
新海洋気象観測船(2023年度竣工予定)
気象庁の新しい海洋気象観測船が2023年度中に登場する予定です。同船は現在運用している「凌風丸」(1380総トン)の代替船で、ジャパンマリンユナイテッド(JMU)が受注しました。同社横浜事業所磯子工場で建造されると見られます。 海洋気象観測船の新造整備は、2020年12月に政府が閣議決定した「国土強靱(きょうじん)化5カ年対策」の中に盛り込まれています。国土交通省は中長期の目標として「気象の監視・予測体制の維持強化を進めることにより、気象の予測精度を向上させ、線状降水帯対策、集中豪雨情報の発表を開始することにより、豪雨災害の被害を軽減する」ことを掲げており、適切な情報収集のため海洋気象観測船の更新が必要だとしていました。 新たな海洋気象観測船は、異常な大雨の原因となる「線状降水帯」の予測精度向上に向け、洋上観測能力を強化。水蒸気観測を行うための「全地球航法衛星システム(GNSS)」も搭載します。※ ※ ※ 地球の未来を占う新燃料を使用する船舶から、温暖化や気候変動を調べる観測船まで多様な船舶が海上に現れる2023年。なかには、フェリーさんふらわあが大阪~別府航路に投入する国内初のLNG燃料フェリー「さんふらわあ くれない/むらさき」のように、実際に旅客として乗れるものもあります。エンジンや船のデザインがどのように進化していくのか、ぜひ注目してみて下さい。