「読書の秋」が深まる中、個人が書店の棚を借りて「推し本」を販売できる「シェア型書店」が広がっている。低コストで本屋を開け、本好きが集まるコミュニティー形成にも一役買っている。専門家は「全国で書店が減る中、地域の文化拠点としての役割も果たしている」と指摘する。
古本屋が並ぶ「本の街」として有名な神田神保町(東京都千代田区)。その一角にあるシェア型書店「ほんまる神保町」には、360ほどの本棚がずらりと並ぶ。各棚には絵本や歴史小説、笑いに関する本などがあり、「棚主」と呼ばれる運営者の個性が凝縮されている。
同店の場合、棚主は20~60代の個人や出版社が中心で、初期費用や月額利用料、売り上げの5%を店側に支払う。下川晴店長(25)は、アンガーマネジメント(怒りをコントロールするためのトレーニング)関連の棚の隣に、タイ発のガールズラブ(女性同士の恋愛もの)を扱う棚が並ぶなど、「一般書店ではあり得ない並びが魅力」と強調。「毎回新しい世界に出合える。旅行のような一期一会がある」と語る。
下川さんによると、シェア型書店は2010年代ごろから広がり始め、現在では全国に110店ほどあるとみられる。「本屋を開きたい」という夢を月数千円から実現できるのが最大のメリットで、棚主の多くは利益を求めない「自己表現の場」として活用しているという。
同店棚主の絵本セラピスト奥山尚美さん(61)は、大人も楽しめる絵本を集めた棚「おひたま」を設置。同店では過去3回、絵本の読み聞かせ会を開いて大人も参加したといい、「自分の好きな絵本を介して、絵本好きの人とつながれることが棚を持つ楽しみの一つだ」と魅力を語る。
公益社団法人全国出版協会(新宿区)によると、全国の書店は03年度に2万店余りあったが、24年度にはほぼ半減した。専修大の植村八潮教授(出版学)は「書店がなくなった自治体にシェア型書店が進出すれば、本に触れられる文化拠点になる。さらにイベントが開かれることで地域の人々が集う場所としての役割も果たす」と話した。
〔写真説明〕「ほんまる神保町」の下川晴店長(右)と棚主の奥山尚美さん=9月25日、東京都千代田区

