もう「天ぷら油」じゃない! 巻き返しを図る「次世代バイオ燃料」の正体 立ちはだかる“法のカベ”

エコロジーな未来の燃料として注目を集めた「バイオ燃料」が、近年さらなる進化を遂げています。特に対応へ積極的なのがマツダですが、どのような取り組みを行っているのでしょうか。

エンジンにも優しく、パワーもある「次世代バイオ燃料」が登場

 エコロジーな未来の燃料として注目を集める「バイオ燃料」。従来とは違う「HVO」と呼ばれるタイプが登場したことにより、近年さらなる進化を遂げています。特に、HVO燃料への対応へ積極的なのがマツダです。どのような取り組みを行っているのでしょうか。

 バイオ燃料とは、バイオマス(生物資源)から作られた燃料のことです。主な原料である植物は、成長の過程で大気から二酸化炭素を吸収しています。そのため、バイオ燃料は燃やしても、二酸化炭素を“出していない”と見なすのが一般的です。

 実際には燃やせば二酸化炭素を排出するものの、環境対策として広まった「カーボンニュートラル」は、このように炭素(カーボン)の全体量を元と同等(ニュートラル)に保つという考え方が基本の原則です。

 ところでバイオ燃料と聞くと、使用済みの天ぷら油から作った再生燃料をイメージする人も多いかもしれません。このような従来のバイオ燃料は「FAME(脂肪酸メチルエステル)」と呼ばれるもので、廃食油をメタノールと反応させて、軽油に近しい性質を作り出しています。

 一方、バイオ燃料は昨今、世界的に「HVO(水素化処理植物油)」という進化したタイプへと置き換わりつつあります。HVOは植物由来の廃食油を水素と反応させ、石油に近い分子に作り替えることで燃料とする、次世代のバイオ燃料です。

 両者の大きな違いが、酸化のしやすさです。FAMEは酸化による変質の進行が早く、エンジンや燃料系配管などのゴムパーツなどにダメージを与えやすい弱点があります。しかし、HVOは酸化しにくく部品への攻撃性が低いため、クルマの使用時はもちろん、1台の車両を長く使うという形でも環境に配慮できるのです。

 さらに、HVOは性能的にもFAMEより優れています。HVOが持つ単位体積当たりのエネルギー量は、現在使われている軽油とほぼ同等。燃料としても軽油並みのパワーが期待できるのです。

そのまま給油しても、軽油と混ぜてもOKに!?

 このHVO燃料に注目しているメーカーのひとつがマツダです。同社は2022年に発売した「CX-60」のディーゼルエンジン車から、HVOへの対応を開始しました。

 このモデルにはHVOがそのまま給油でき、継ぎ足して軽油と混ぜてもOK。ユーザーが車両側に改造を施したり、何か設定を変更したりする必要はありません。

 筆者(西川昇吾:モータージャーナリスト)は、実際にHVO燃料で走る「CX-80」に試乗しましたが、通常のモデルとの差は感じず、違和感も全くありませんでした。このように、どちらの燃料も使うことができるフレキシブルさは、HVO燃料の大きな魅力と言えます。

 しかし日本ではまだHVOは普及していません。その理由のひとつが価格で、現状では通常の軽油の3~4倍の価格で販売されています。

 また、法律上の規制も大きな課題です。HVOは日本の現行法において、そのままの状態では軽油として使用・販売することができません。そのため、例えばユーグレナ社のHVOバイオディーゼル燃料「サステオ」は、軽油49%とHVO 51%を混合することで、法規制をクリアしています。

 一方、カーボンニュートラル施策に熱心な国の多いヨーロッパでは、HVO燃料の普及が進んでいます。HVO100%の燃料が通常のガソリンスタンドで販売されていることがあり、補助金の交付によって、販売価格も軽油より5%ほど高い水準で抑えられています。そのためヨーロッパ市場では、マツダ以外のメーカーもHVO燃料に対応した車種を展開しています。

 クルマが取り組むカーボンニュートラルへの対応策は、電動化をはじめ様々なものがあります。なかでも、既存のディーゼルエンジン車でHVO燃料に対応していくことは、未来に向けた“現実的な”取り組みのひとつだと言えます。筆者も、HVO燃料が日本でも「次世代バイオ燃料」ではなく、一般的な燃料として早期に普及することを期待しています。

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