
7月の参院選でパチンコ業界は初めて、業界団体から「組織内候補」を擁立した。組織票の獲得に主眼を置いた選挙戦を展開し、「何としても自分たちの候補者を通したいと盛り上がっていた」(関係者)。SNS上には、店長らに投票を働き掛けたとみられる投稿もあった。
「スタートダッシュが肝要です。毎日、各事業所ごとに集計した数字をご登録ください」。公示直後の7月上旬、都道府県や会社単位で作られたラインのグループチャットに、全国比例で出馬した阿部恭久氏(66)への投票状況の報告を求める投稿があった。阿部氏は、業界団体「全日本遊技事業協同組合連合会」の理事長も務めており、チャットには「応援する会」などの名称が付けられていた。
同連合会幹部は、このチャットへの組織としての関与を否定する。そのため、誰が立ち上げたかは不明だが、グループチャットには各店舗の従業員やその家族が何票、阿部氏に投票したかを店長に報告させるためのフォームも貼り付けられていた。
東京都内のある店長によると、店舗ごとにチャットへの参加目標人数と達成率が示され、阿部氏の名前を書いた投票用紙の画像を投稿した人もいた。支部からの依頼でフォームを送信したという。投票状況の報告は強制ではなかったが、店長は水増しした人数を記載。「やらなければいけないというプレッシャーが本社からあった」という。
別の店長によると、チャットでは毎週、都道府県や系列店舗ごとの投票者数が公表されていた。「『当選しなかったら終わるぞ』と気合が入っていた。ゼロとは書けないだろう」と振り返った。
業界団体が力を入れて選挙に取り組んだ背景には、強い危機感があるとみられる。警察庁によると、1995年に約1万8000店あったパチンコ店は、24年には約6700店に減少。業界内では、カジノを含む統合型リゾート(IR)開業に向けた動きもある中、規制緩和など業界の苦境を打開する必要性が高まっている。
ただ、関係者によると、阿部氏は業界としての予想得票数を大幅に下回り落選したという。浮動票の取り込みに失敗したとみられ、業界幹部は「選挙のことを分かっていなかった」と振り返った。
〔写真説明〕「全日本遊技事業協同組合連合会」が入る遊技会館=東京都新宿区