英史上最大の空母「なぜ艦橋が2つあるの?」乗ってわかった多数のメリット! 普段使わない小部屋まで

東京国際クルーズターミナルに寄港したイギリス最新の空母「プリンス・オブ・ウェールズ」にこのたび乗船取材してきました。乗ってみたら、「ECP」なる普段は立ち入れない部屋にも入ることができました。

イギリス最大級の空母に乗って乗員のハナシ聞いてきた

 イギリス海軍の航空母艦「プリンス・オブ・ウェールズ」が2025年8月28日から9月2日にかけて、東京国際クルーズターミナルに寄港しました。東京港に空母が入るのは極めて珍しく、欧州からはるばるやってきた巨艦をひと目見ようと、お台場などには昼夜問わず多くの人が詰めかけていました。

 なお、期間中に開催された一般市民向けの艦内ツアーでは90人の枠になんと4万人が応募。日本ではなじみが薄い「ロイヤル・ネイビー」が空母の寄港を通じて多くの関心を集めていることを筆者(深水千翔:海事ライター)も肌で伺えました。

 クイーン・エリザベス級空母が持つ大きな特徴のひとつに、前後に分かれた2つの艦橋(アイランド)があげられるでしょう。艦首側は操舵室が、艦尾側には航空管制室がそれぞれ設けられており、各々の機能を特化させることで余裕を持った空間を確保し、空母打撃群の任務を効率的に遂行できるよう、工夫が施されています。

「プリンス・オブ・ウェールズ」を案内した乗組員は「世界で唯一、ツインタワー設計を採用した空母で、すべて冗長性を確保するための設計だ」と胸を張ります。

 後部アイランドで重要な機能のひとつに、前方のメインブリッジの機能が失われても操船が可能な、緊急操舵室(ECB = Emergency Conning Bridge)が置かれていることがあげられます。

 乗組員は「戦争中に起こり得る最悪のシナリオ」と前置きしたうえで、「艦首側のアイランドにミサイルが命中した場合、航行システムが停止し、艦橋としての機能を失ってしまうかもしれない。しかし、『プリンス・オブ・ウェールズ』にはこのエリア(ECB)があるため、海上で漂流することはなく、ここから指揮をとることで航行を継続できる」と話します。

「同様に、こちらのアイランドがミサイル攻撃を受けた場合、フライコ(航空管制室)の機能は失われるが、すべての飛行オペレーションを作戦室へ、さらに戦闘指揮所へと移して戦闘を継続することが可能だ」

大型輸送ヘリのローター直撃にも耐える強度

 ECBは少人数でも運用できるよう非常にコンパクトなレイアウトとなっており、中央の椅子に着座したままエンジンの出力制御と操舵が行えます。レーダーや電子海図、AIS(自動船舶識別装置)といった航行に必要なすべてのモニターや機器は揃っていますが、万一の事態に備えて紙海図への書き込みや航海日誌への記録を行うテーブルも用意されていました。

 乗組員は、「艦内にはダメージコントロールや脱出用の装備がたくさんある。たとえば、船内を見渡すと、こうした電話機が設置されているのがわかるだろう」と無電池式電話装置(Sound Powered Telephone)を手に持って説明を続けます。

「通信手段が失われ、電話が使用不能になった場合、船内を呼び出せる設定済みの回線がある。無電池式電話装置は電流を必要とせず、電流を自ら発生させて通信することが可能だ」

 また非常用の艦橋であるECBの近くには、航空管制室が設けられています。ここはフライコ(Flyco = Flying control position)、またはタワーと呼ばれており、「プリンス・オブ・ウェールズ」の艦上で行われるすべての航空管制を担っているところです。

 この部屋の左舷側には、高さ3mにもなる多層装甲ガラスの巨大な窓が設置されており、飛行甲板を290度見渡すことができます。大面積の窓を採用したことで、艦尾から接近する機体や高い高度を飛行する機体の視認性が向上しており、高い技量が要求される着艦時のサポートをより綿密に行えるようになりました。ちなみに、この窓ガラスはCH-47「チヌーク」輸送ヘリコプターのローターブレードの直撃にも耐えられる強度を持っているそうです。

 この部屋で説明してくれた乗組員によると、「フライコの一番奥に位置するのが着艦信号士官(Landing Signal Officer)」の席だ。担当するのはF-35Bの操縦資格を持つパイロットで、艦船の周辺を飛び回る各種航空機を統制し、着艦・離艦という複雑な任務を安全に遂行できるよう、パイロットを支援する責任を負う。必要に応じて航空機と直接、無線で連絡を取り、アプローチ中の機体に対して緊急時の行動や燃料の問題、発着タイミングの問題など、直面するあらゆる事態に対処する支援を行っている」とのことでした。

分割式艦橋のあいだに何がある?

 また、艦全体を見渡せる航空管制室というシチュエーションを生かし、乗組員は飛行甲板の説明も行っていました。

「飛行甲板の中央付近に引かれている、後部から前部、そしてランプの先端まで続く非常に太い黒い線が滑走路だ。全長約900フィート(約274m)で、通常、離陸するのは350フィート(約107m)地点。この空母をユニークにしている要素のひとつが艦首部に設けられたランプ(スキージャンプ)だろう。ランプを備えた空母は世界に数隻しか存在しない。これがあることで、わずかながら追加の軌道が得られ、通常より短い滑走距離で、かつ通常より多くの装備を搭載した状態でF-35Bを離陸させられる」

 また、クイーン・エリザベス級ではアイランドを分けたことで右舷中央部にも昇降機(リフト)を置けるようになり、飛行甲板の面積を広げることができました。発艦時に前部リフトを上昇状態で固定する必要がなくなったため、格納庫と飛行甲板の間で機体や物資を2つのリフトを使って効率的に運べるようになっています。

「『プリンス・オブ・ウェールズ』はヘリコプターとジェット機を同時に発着させられるのも特徴のひとつだ。本艦の左舷側にはF-35B戦闘機の着艦場所となる5つのスポットがあるほか、右舷側には6つ目のスポットとその周辺にヘリコプター用の追加スポットも設けられている。つまり、左舷側でジェット機を運用しつつ、右舷側では常にヘリコプターの運用が可能である」

 見学を通じて、クイーン・エリザベス級はイギリスから遠く離れた地域への迅速な戦力展開と、現代戦で必須なF-35Bとヘリコプター両方の効率的な運用、そして艦の生存を重視していることがわかりました。

 冗長性を確保するため、艦橋と煙突の機能を持つアイランドを2つ置き、飛行甲板を広げるとともに、前部と後部のいずれかが攻撃を受けても航行が継続できるシステムを作るという考え方は、限られたスペースでミッションを行う必要がある空母では合理的なのかもしれません。

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