
80年前の戦争の記憶を次の世代へ―。自治体の間では、ふるさと納税の仕組みを活用し、特攻隊や空襲などの経験を今後も伝えていくための費用を寄付金として募る動きが出ている。展示施設の改修や記録映像の製作など、デジタル技術も駆使しつつ、不幸な歴史を風化させまいとする取り組みが各地で模索されている。
太平洋戦争末期、旧日本陸軍最大規模の特攻基地から出撃した隊員の資料を展示する知覧特攻平和会館(鹿児島県南九州市)は7月31日、基地や周辺を立体図形で示すジオラマ展示をリニューアルした。これに先立ち、市は昨年11月から約3カ月間、この改修に使途を限定したクラウドファンディング型のふるさと納税で寄付を募集した。
「興味を持つ全国の人から寄付を募ることができる」(市担当課)のが特色で、目標額500万円に対し、406万5000円が集まった。寄付した126人中、9割近くの109人が県外在住者。返礼品はないが、会館は感謝の気持ちとして入場券2枚とポストカードを贈呈した。
展示では立体地図とスクリーンが連動し特攻作戦を分かりやすく説明するプロジェクションマッピング機能を導入。敵から飛行機を守るシェルターとして使われた「掩体壕(えんたいごう)」など戦跡のボタンを押すと地図上で場所が示され、スクリーンに絵や説明が表示されるようになった。塗木弘幸市長は「今後も特攻の現実を語り継ぎ、世界の平和に寄与していく」と決意を述べた。
見学した大学2年の丸目晴可さん(19)は「どこで何が起きたか想像しやすかった」としつつ、「同じ年の人の命が国のために失われたのは悲惨だが、こういうことを繰り返しちゃいけないと目を向けていかなければ」と語った。
今月2、3両日、新潟県長岡市では日本三大花火大会の一つ「長岡まつり大花火大会」が開催された。1945年8月1日の長岡空襲による犠牲者らの慰霊と平和への願いが込められた花火。空襲では1489人が命を落とした。「何でもっと早く戦争をやめなかったのか」「爆弾より、ミサイルより、花火を打ち上げる方がいい」。来場者からは口々に思いが寄せられた。
空襲の記憶を伝え続けるため、市は戦災資料館の移転整備に乗り出した。昨年4月から募集している寄付は既に目標額の1億円を超えた。総事業費は15億円程度。来年5月に開館予定だ。犠牲者の遺影とエピソードの展示を常設化。防空壕(ごう)を再現するなど「体験型」展示も新設する。
広島県福山市が寄付を集めるのは、終戦1週間前の8月8日に起きた福山空襲の記録事業。200万円を目標に来月13日まで募集する。空襲で市民の日常がどう変わったかや、戦後の暮らしぶりについて経験者に証言してもらい、映像に残す。映像は市内の施設で流したり、平和学習の教材として活用したりする。
枝広直幹市長は「実体験の声を記録に残し、後世に伝えることが戦争の悲惨さを風化させないためにも大変重要だ」としている。
〔写真説明〕知覧特攻平和会館の外観=7月31日、鹿児島県南九州市
〔写真説明〕知覧特攻平和会館でリニューアルしたジオラマ展示=7月31日、鹿児島県南九州市
〔写真説明〕「長岡まつり大花火大会」で打ち上げられた「白菊」。長岡空襲犠牲者ら戦没者の慰霊と平和への祈りが込められている=8月2日、新潟県長岡市
〔写真説明〕1945年8月8日の空襲から数日後の広島県福山市内の様子(同市人権平和資料館所蔵)