
昨年ノーベル平和賞を受賞した日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)と連携し、世界に被爆の実相を伝える取り組みを行っているNPO法人が、貴重な資料の整理やデジタル化などに向け、クラウドファンディング(CF)による協力を呼び掛けている。被爆から今年で80年。同法人の栗原淑江さん(78)は「記憶をつないでいきたい」と語った。
NPO法人は2011年に発足した「ノーモア・ヒバクシャ記憶遺産を継承する会」(東京都千代田区)。これまで講演会やオンラインミュージアムなどで資料を公開してきたほか、被爆者の手記や証言、運動の記録など約2万点の資料を3カ所の倉庫に分散して保管している。日本被団協が1983~84年に広島・長崎の被爆者3690人に「一番つらかったこと」などを調査した際の回答用紙の原本も含まれている。
「お母さんが家の下敷きになった」「『助けて』と言う人を蹴とばして逃げた」。保管されている回答用紙には、被爆者の生々しい声が記されている。資料の劣化を見据え、デジタル化とネット上での公開を目指しているが、人手不足と資金難が大きな課題となっている。
同法人のスタッフ5人は全員無給で、デジタル化に向けた目録作りや個人情報の黒塗り作業を担当しているのは栗原さんただ一人。大学生のボランティアに協力を得て資料整理などを進めるが、栗原さんは「戦後80年を迎え、当事者が減っている。貴重な資料を残さなければならない」と危機感を募らせている。
同法人は資料のデジタル化とともに、保存・公開の拠点「継承センター」の設立を目指している。まずは法人の活動を支える安定的な財源の一部を寄付で募るため、6月23日からCFを開始。栗原さんは「二度と戦争しない未来をつくっていくためにも、資料から学び自身のこととして捉えてもらいたい」と訴えた。CFの期間は8月15日まで。
CFサイトのURLはhttps://syncable.biz/campaign/7948。
〔写真説明〕資料を整理するNPO法人「ノーモア・ヒバクシャ記憶遺産を継承する会」の栗原淑江さん=6月20日、さいたま市南区
〔写真説明〕NPO法人「ノーモア・ヒバクシャ記憶遺産を継承する会」の倉庫に保存された資料=6月20日、さいたま市南区
〔写真説明〕インタビューに答えるNPO法人「ノーモア・ヒバクシャ記憶遺産を継承する会」の栗原淑江さん=6月20日、さいたま市南区