
ウクライナに侵攻するロシアで2023年6月に民間軍事会社「ワグネル」が武装反乱を起こしてから2年が過ぎた。反乱失敗から2カ月後に創設者エブゲニー・プリゴジン氏が自家用機の墜落で死亡。ワグネルの解体は進み、暗躍していた西アフリカのマリでも今月6日に「任務完了」を宣言した。プリゴジン氏の家族は本業の飲食・ホテル事業に専念している。
◇「故郷に帰る」
「主要な任務を果たした。ワグネルは故郷に帰る」。ワグネルは通信アプリ「テレグラム」を通じてマリからの撤退を表明した。マリではクーデターで21年に実権を握った軍事政権のゴイタ暫定大統領が旧宗主国フランスと対立し、ロシアのプーチン政権に接近。ゴイタ氏を支えるため、プーチン政権の意向で21年秋からワグネル関係者が「軍事教官」として派遣されていた。
ワグネルは軍政と連携して反政府勢力と交戦してきたが、プリゴジン氏の死後は組織が弱体化。昨年7月の反政府勢力との衝突では、ワグネル戦闘員80人以上が死亡する「最大の敗北」(英BBC放送)を喫した。
プーチン政権は引き続き軍政を支援する構えで、ワグネルを解体・再編成した「アフリカ部隊」をマリに派遣した。ワグネルの任務完了宣言はアフリカ部隊の本格始動とも受け止められている。
プーチン大統領とゴイタ氏は今月23日、モスクワで2年ぶりに会談。エネルギーや安全保障分野での協力強化で一致した。この日はくしくも反乱から丸2年の節目だった。
◇子女が相続
プリゴジン氏は高級レストランや大統領府のケータリング(仕出し)を手掛けて「プーチン氏のシェフ」の異名を取った。「偽ニュース工場」と呼ばれた企業を創設し、インターネット上での世論誘導を通じて16年の米大統領選に介入。政権の裏仕事を請け負い、存在感を増していった。
ところが、ワグネルを率いて武装蜂起したことで「虎の尾」を踏んだ。プリゴジン氏の墜落死は政権による「粛清」との見方が強い。
ケータリングを含む飲食事業は、遺言に基づき息子パベル氏が後を継いだ。政権の圧力で一時苦境に陥ったが、独立系メディアによると、競争入札に再び参加できるようになり、昨年はモスクワ州の給食事業で記録的な利益を上げたとされる。
本拠地の北西部サンクトペテルブルクにあるホテルは娘ベロニカ氏が経営する。米政府系放送局は「プリゴジン氏の事業は生き残り、繁栄している」と伝えた。
〔写真説明〕ロシアの民間軍事会社「ワグネル」創設者プリゴジン氏=2023年8月22日の通信アプリ「テレグラム」投稿より(AFP時事)
〔写真説明〕死亡したロシアの民間軍事会社「ワグネル」戦闘員を弔う仮設の慰霊所=2月24日、モスクワ(EPA時事)