
ロシアのプーチン大統領が24年ぶりに北朝鮮を訪問して、19日で1年。金正恩朝鮮労働党総書記と会談し署名した「包括的戦略パートナーシップ条約」は、ウクライナ侵攻を続けるロシアへの北朝鮮兵派遣に道を開いた。友好国との軍事協力の実例を示した格好で、欧州だけでなく北東アジアや中東の安全保障にとっても無視できない要素となっている。
◇兵士の半数死傷か
「自分の祖国のように守り抜いた」。今月4日に訪朝したロシアのショイグ安全保障会議書記(前国防相)は、ウクライナの越境攻撃を受けたロシア西部クルスク州奪還に投入された北朝鮮兵をたたえ、正恩氏に謝意を伝えた。同17日に再訪したショイグ氏に対し、正恩氏は地雷除去や復興支援名目で工兵ら6000人を送ると約束した。
有事での相互支援をうたう新条約は、それまでひそかに進められていた北朝鮮の対ロ弾薬供給を追認した。ウクライナには北朝鮮製の短距離弾道ミサイル「KN23」が撃ち込まれたとされる。兵士派遣も新条約に基づく措置だ。
ロシア派兵は、見返りにミサイル技術や実戦経験などの獲得を期待する北朝鮮が持ち掛けたと言われる。だが、北朝鮮も大きな人的損害を被った。英国防省は今月、当初投入された北朝鮮兵約1万1000人の半数を超える6000人以上が死傷した可能性が高いとの推計を発表した。
軍事協力と並行して、ロ朝は政治面の接近も加速させている。プーチン氏が招待した正恩氏のモスクワ訪問も調整中だが、旧ソ連の対ドイツ戦勝記念日に合わせた5月のタイミングは見送られた。ロシアで今月、ウクライナによるドローン攻撃や列車爆破が相次いだこともあり、正恩氏の身の安全を最優先させ、慎重に時期を見極めている可能性がある。
◇国際的影響力は低下
プーチン氏は1月、緊密な関係にあるイランとも包括的戦略パートナーシップ条約に署名した。ロ朝が結んだ同名の条約と異なり、条文で有事の相互参戦までは想定していない。
それでもイランには、条約を活用したいとの思惑がにじむ。今月、イスラエルから大規模攻撃を受けると、モスクワのイラン大使館は「議会が(新条約を承認して)大統領に送った」と表明。自国には「友好国」ロシアが後ろ盾としてついていると誇示した。
もっとも、ウクライナ侵攻に注力するロシアの国際的な影響力は低下している。2015年から軍事介入までしてシリアのアサド政権を支えたが、その崩壊を傍観するしかなかった。今回のイスラエルとイランの交戦でも、「仲介者」という建前があり身動きが取れない。仮に朝鮮半島で有事が起きた場合、ロシアが北朝鮮にどれだけの「見返り」を与えられるかにも疑問符が付くのが現状だ。
〔写真説明〕ロシアのプーチン大統領(左)と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記=2024年6月、平壌(朝鮮中央通信配信・AFP時事)