
アニメやマンガなどでは子どもが大型ロボットなどの操縦席に乗り込むシーンが描かれたりします。翻って現実世界で、子供が戦闘機の操縦席に座った場合、各種レバーやペダルなどに手足が届くのでしょうか。
戦闘機の操縦席って誰向け?
ロボットアニメなどサイエンスフィクション作品では、しばしば「子どもが兵器を操縦する」というシーンが描かれます。小学生が複雑な操縦をこなし、戦場で華々しく活躍をする姿は、観客に強い印象を与えます。こうした描写が描く未来の技術は、想像力をかきたてられますが、たとえば子どもが現実世界で戦闘機を操縦する場合、どのような制約を受けるのでしょうか。とりわけ身長の小ささで問題は出ないのでしょうか。
現実の戦闘機は、基本的に成人男性が乗り込むことを前提に設計されています。なぜなら、長らく戦闘機パイロットはほぼ男性しかいなかったから。そのため、人体の構造や機械とのインターフェースにおいて、主な操縦者たる成人男性に最適なバランスを提供できるよう、サイズや空間を設定されています。
具体的には、飛行機のコクピットに座るための空間や操作のための手や足の位置などです。そのため、大きく身長や体格が平均から逸脱している場合、操縦に必要な視認性や操作のしやすさ、さらに安全性といった面で問題が生じる可能性があります。
身長が低いとシートに座った際の視野が確保できなかったり、機器の操作が不便になったりすることがあります。また、コクピット内の緊急時の脱出装置や安全装置の設計も、成人男性を基準にしたものが多いことから、身長が低いパイロットにとっては脱出が困難になる可能性もゼロではないかもしれません。
実際、世界を見渡してみると、空軍パイロットに対して身長制限を設けている国もあります。たとえば、日本の航空自衛隊では、パイロット候補生の募集に対して158cmという身長制限を設けています。これは、成人男性の大多数は問題なくクリアできる数字ですが、女性となると平均身長とほぼ同じなため、実にその半分が不適格となってしまいます。女性に対しては厳しすぎる制限だと言えるでしょう。
ついに日本で身長制限を撤廃する動きが
アメリカ空軍も過去にはパイロットに対して身長制限を設けており、当時は163cm以上196cm未満という基準でした。この制限は、コクピットの設計における物理的な制約に起因するものであり、機体内でパイロットが安全かつ効果的に操縦できるために必要な基準とされてきました。
しかし2020年にアメリカ空軍はこの制限を撤廃しました。その後は航空機を運用するのに十分な大きさであることを、個人ごとに測定したうえで選考しており、今では149cmという小柄な女性パイロットも存在します。
これは、パイロットの人材確保という観点からも非常に重要な改革となりました。特に女性や小柄な男性の中にも、飛行機の操縦に必要な素質を十分に備えている人々が多くいるため、彼らを採用することで新たな才能を発掘することができるようになったからです。
なお、国土交通省は2025年2月、パイロットを育成する航空大学校において158cmの身長制限を撤廃する方針を固めました。これは女性活躍推進という見地だけではなく、パイロット不足が大きな問題となっている航空業界において、より多くの人材を集める目的があると考えられます。
とはいえ、極端に大きかったり小さかったりすると、やはりどうしてもカバーしきれない部分があることは事実です。機体の設計や安全性、操作の精密さを確保するためにも重要な要素であるためです。
しかし、現代の空軍は、身長に関する制限を緩和する方向に進みつつあり、多様な体格の人々がパイロットとして活躍できる機会を得られるようになっています。これにより、より多くの才能を発掘し、さらなる全体スキルの発展が期待されます。
子どもが戦闘機を操縦するというSF的なシナリオは、現実的な視点から見ると極めて難しいと言えますが、身長に関しては航空自衛隊も、前出のアメリカ空軍や航空大学校の流れを受けて、そう遠くないうちに撤廃・緩和する方向へ向かうのではないでしょうか。