
日英伊の3か国共同で進む次期戦闘機の開発プロジェクト「GCAP」に対し、一部メディアがオーストラリアも参加を検討していると報じました。実際はどうなのか、現地の専門家に真相を聞きました。
次世代戦闘機開発に新たな参加者?
2025年現在、日本は航空自衛隊が運用するF-2戦闘機の後継として、次世代の第6世代戦闘機開発計画「GCAP(Global Combat Air Programme)」を進めています。
この計画は、開発リスクと膨大な費用を分散するため、日本にとっては初めてとなる欧州諸国(イギリス・イタリア)との多国間共同開発プロジェクトとして進められています。
このたび、その共同開発プロジェクトに興味を示す国として、オーストラリアの名前が挙がり、話題となっています。
イギリスのニュースメディア「フライトグローバル」によれば、先月末にオーストラリアのアバロン空港で開催された「アバロン・オーストラリア・インターナショナル・エアショー」(以下、アバロン・エアショー)において、オーストラリア空軍の高官が次世代戦闘機「GCAP」に関する情報説明を受けたと報じました。この報道により、オーストラリア空軍が本計画に関心を持ち、将来的に参加する可能性があることが示唆されたため、日本国内でもSNSなどで話題となりました。
しかし、アバロン・エアショーの現地で「GCAP」は決して目立つ存在ではありませんでした。関連展示は、計画に参加しているイギリスの防衛企業BAEシステムズがブースで模型を展示していた程度です。しかも、その模型にはイギリス空軍の記章が入れられ、展示内容もイギリスが単独で開発していた名称の「テンペスト」が使われており、新たなパートナー獲得を目的とした営業活動というよりは、自社の開発実績をアピールする展示だったといえるでしょう。
この件について、オーストラリアの軍事系ニュースメディア「Australian Defence Magazine(ADM)」の編集者ナイジェル・ピトウェイ氏が、現地で自国空軍およびBAEシステムズの関係者に取材していたことから、筆者(布留川 司:ルポライター・カメラマン)は内情について詳しく聞いてみました。
豪州と日本の似た状況
ナイジェル氏によると、アバロン・エアショーにおいて初めて「GCAP」のブリーフィング(情報説明)が行われたことは事実のようです。しかし、これが即座にオーストラリアの計画参加に直結するわけではなく、ナイジェル氏も「この計画にオーストラリア空軍が将来的に十分な関心を持てば、同国がパートナー国の一員として日本・イギリス・イタリアとともに参加する可能性はあるかもしれません」と分析しています。
今回、BAEからGCAPについて説明を受けたのはオーストラリア空軍の高官でしたが、実際に国家として多国間の戦闘機開発計画に参加するには政府の承認が必要であり、たった1回の情報説明で決定することはありません。ナイジェル氏が今回の出来事を「将来的な可能性」として捉えたのは妥当といえるでしょう。
とはいえ、どのような機体を選ぶにせよ、オーストラリア空軍が次世代機の選定を始める時期に差し掛かっているのは確かです。ナイジェル氏も「オーストラリア空軍は24機のF/A-18Fと72機のF-35Aを運用していますが、F/A-18Fについては2040年まで運用を継続すると公表しています。それ以降は、既に導入されているF-35を補完する新たな戦力が必要となります。この方向性は、『GCAP』が目指す将来像と合致しており、同空軍の次世代空中戦闘能力に符合するものだといえるでしょう」と述べていました。
なお、オーストラリアが求める能力のひとつには、広大な国土と島国という地理的条件から「長い航続距離」が挙げられます。これは、機体の大型化が特徴の「GCAP」ともマッチする可能性があります。ただし、機体の大型化は「GCAP」に限らず、現在開発中の第6世代戦闘機全般に共通する傾向でもあります。
ナイジェル氏も、オーストラリア空軍が求める次世代空中戦闘能力に対応する候補として「GCAP」だけでなく、アメリカのボーイング社による「F-47」の名前も挙げていました。つまり、オーストラリア空軍は「GCAP」一択というわけではなく、複数の選択肢を検討したうえで、今後の計画の進捗や政治的判断によって参加の有無を決めていくことになりそうです。