
双発ビジネス機「スターシップ」と、ボーイングが構想した旅客機「ソニッククルーザー」はともに共通したユニークな外形をもちながら商業的に成功しませんでした。なぜでしょうか。
ともに翼構成が既存機とは逆!
1980年代に登場したビーチクラフトの双発ビジネス機「スターシップ」と、2000年代に構想されたボーイングの旅客機「ソニッククルーザー」は、ともに大手航空機メーカーが設計したユニークな外形をもつ機体という点が共通しています。ともに機首の両脇に「カナード」と呼ばれる小翼がついていることです。しかしどちらも斬新な設計ではあったものの、商業的に成功とはいえませんでした。どういった理由からなのでしょうか。
「スターシップ」と「ソニッククルーザー」は、両機とも未来的なネーミングに加え、スタイルも主翼と尾翼は前後が入れ替わったような、それまでの民間機ではありえなさそうな姿をしていました。しかし、「スターシップ」は53機のみで生産は終わり、「ソニッククルーザー」は構想のみで量産はされませんでした。
一般な翼構成をもつ民間機は、重心より後ろに配置した主翼が上向きの揚力を発生し、機体の後部に付けた水平尾翼が下向きの揚力を生みバランスを取っています。これに対し、「スターシップ」や「ソニッククルーザー」は先尾翼と呼ばれるスタイルで、先尾翼と主翼が共に揚力を上向きに発生させて飛行することが出来ます。揚力を有効活用できる反面、機首を上げ下げする操作が敏感になり、安定性を重視する旅客機などでは敬遠されるといわれています。
もちろん、こうしたメリットとデメリットは古くから知られており、2機もそれを踏まえつつ、メリットを重視して機体デザインを決めたのは確かです。
ユニークな翼デザイン、なぜ浸透せず?
しかし、先述のとおり、2機種とも商業的な成功とは程遠い結果に終わっています。
「スターシップ」はアルミ合金より軽くて強い複合材料を全面的に採用したものの、当時は複合材料自体が航空機に広く使われる前だったので、“材料費”はかえって高くついてしまいました。いわば、新技術を盛り込むのが早すぎたのです。
対し「ソニッククルーザー」の開発発表は、ボーイングのライバルであるエアバスが、「ジャンボジェット」こと747シリーズより大型の旅客機「A380」を登場させようとしていた時代です。「ソニッククルーザー」は「大型化より高速化」のコンセプトを優先したもので、別の観点からライバルと差をつけようとしていました。
しかし、巡航速度は、一般の旅客機がマッハ0.8なのに対しマッハ0.9と「少し速く」なっただけ。巡航高度も3万~4万フィート(約9150mから1万2120km)に対し、4万フィート以上といったように「少し高いところ」でした。
このため、短距離路線では速度向上の効果を発揮しにくく、奇抜な姿は既存の空港施設で取り回しがしやすいかも航空会社は判断しかねたことから、同機は構想のみで消えてしまい、A380の登場も許してしまったのです。
「スターシップ」と「ソニッククルーザー」が成功しなかった理由はそれぞれですが、先尾翼と言う斬新なスタイルが訴求力にならなかったという点は似ています。2機が商業的な成功から程遠い結果に終わったのは、民間機市場では“見栄え”以上に、製作費などのコストや使い勝手が優先されるというのを示したものであると、筆者は考えています。