
都心の鉄道はわずかな雪でも運行が大きく乱れがち。一方、雪に強いと言われる豪雪地帯の鉄道でも、近年は大雪で運休するケースが増えています。雪に弱い鉄道と強い鉄道、その違いを決めるのは何なのでしょうか。
線路だけでは済まない「除雪」
都心の鉄道は15cm程度の雪でも大きく影響を受けるのに対し、雪国は凄まじく、一晩に50cm以上積ることもあります。筆者が2025年2月に豪雪地帯の新潟・十日町を訪れた時は3m近い積雪でしたが、このような状況でも、ほくほく線(北越急行)は平常通り走っています。
一方、近年では“雪に強い”はずの雪国の鉄道も、止まる事態が増えてきました。同じレールを走る鉄道なのに、この差はいったいどこから来ているのでしょうか。ここには雪以外にも問題が潜んでいるようです。
雪国では線路に雪が溜まると、車両の先頭に付けられた排雪装置(スノープラウ)が雪をかき分けます。これが続くと排雪装置の高さまで雪壁ができて左右に雪が飛ばせなくなるので、今度はラッセル車で車両限界を超えて幅広に高めに雪を線路からかき分けます。このため豪雪地帯の架線柱は線路から離れた位置に建植されています。
雪壁が高くなるとラッセルでも除雪できなくなるので、今度は雪壁を削って遠くに飛ばすロータリー車の出番となります。近年では機動的に動かせる排雪モーターカーによる除雪が一般的になりました。
山岳部を走る路線の場合、線路の上の法面(斜面)の雪が線路に落ちないように貯雪・防雪の策が作られたりもします。トンネル坑門上の斜面から雪が落ちることもあるので、トンネルを手前に延長したり(ルーバー部)、スノーシェッド(雪除けの上屋)を設けたりもします。
時には雪崩を防ぐためにダイナマイトで斜面の雪を落とすような事も試みられています。また、平野部では吹雪による吹き溜まりを防止するために防雪林が設けられているところもあります。鉄道の除雪は線路だけでは済まないのです。
昔、雪国では鉄道は強いと言われていました。雪で国道が閉鎖されていても鉄道は走っているということもよくあったのです。しかし、鉄道には弱点があります。それが「分岐器」「踏切」「駅構内」です。
雪に強いはずの鉄道、結局は“人”?
分岐器に雪が詰まると不転換、つまり進路の切り替えができなくなります。特に線路の雪をラッセルなどで押し分けると分岐器に雪が詰まり、人手で取り除かなければならなくなります。分岐器の5m手前から線路内の雪を枕木が見えるまで取り除けば防げるのですが、これを人手で行うのも相当な労力です。
豪雪地帯では線路内に水を流して融雪する設備もありますが、水利権の確保など簡単ではありません。分岐器の前後に雪が積もらないスノーシェッドを設けるのも規模が大きいので相当な投資となります。
踏切も厄介で、道路除雪車は踏切の除雪を行わないので、踏み固められた雪がデコボコの堅い氷板となります。これを人力で、スコップやツルハシで氷を割って取り除くのですが、なかなか重労働です。かといってロードヒーティングは電気代がかかりますし、水を流すには水利権が必要です。
そして、駅構内も旅客が歩く部分は除雪が必要です。階段や通路など除雪車が入れないですから、これも始発列車が走る前に人手で行うことになります。線路の雪は排雪モーターカー等で除雪できたとしても、鉄道を動かすには多くの人手が必要なのです。
豪雪地帯の鉄道が雪に強いと言われたのは、多数の人員が除雪にかかるか、少ない人員が超人的に頑張って除雪をしていたから、という事情が大きいのです。
近年は人手不足で、除雪を依頼していた建設会社やシルバー人材センターなども人員の確保がしづらくなってきました。このため、慣れない事務職員まで駆り出して除雪に当たることもありますが、なかなか追いつかなくなってきている中で平常以上に雪が降ると、もうお手上げとなってしまう状況が増えています。
筆者が十日町を訪ねた時も、JR上越線の水上―長岡間は「大雪のため運転見合わせ」となりました。翌日は除雪をしても雪壁が残り、ほくほく線の車両はミラーが雪壁に当たるため六日町―越後湯沢間への乗り入れは中止。さらにその翌日の上越線は除雪のため昼間、越後湯沢―六日町間が運休となっていました。同じころ、山形の奥羽本線についても除雪が追い付かないことが話題になっていました。
雪に強いのは「理由がある」
一方、ほくほく線の六日町―犀潟間は通常運転をしていました。これは長大トンネルが多いこと、踏切がほぼ無いこと、雪が溜まらない高架橋、融雪設備を備えた駅、分岐器に落ちた雪を温水で飛ばす装置など数々の対策を打っていることもあります。
古い鉄道路線の設備改良は列車の走らない間しか工事ができないのでコストと時間がかかりますが、ほくほく線のように比較的新しい路線で、建設時に雪対策が組み込まれていると有利なのです。とはいえ、ほくほく線も全線約60kmのうち18kmは除雪が必要な区間があり排雪モーターカーでの除雪が行われています。
山形新幹線(奥羽本線)の福島-米沢間も豪雪地帯で古い路線ですが、こちらは分岐器にスノーシェッドが設けられ、除雪にも相当な労力を投入しています。雪が降っても何事もなく列車が走る影には、こうした投資や労力がかかっているのです。
他方、近年では道路除雪が充実し、道路は開通しているが鉄道は不通という、かつてからすれば逆転現象も各地で見られるようになりました。
都市部の鉄道はやっぱり「雪に弱い」 社会が変わるしかない?
さて、都心の鉄道はどうでしょうか。雪装備としては、分岐器の凍結防止ヒーターやカンテラ、ブレーキ制輪子を常時車輪に当てて制輪子と車輪の間に氷雪が詰まらないようにする耐雪ブレーキなどが見られます。
十数cmの雪が降るのも数年に一度あるか無いかという状態で、雪国のような対策を施すのは現実的ではありません。使われない設備でも、装備すればメンテナンス費もかかります。また車両数もローカル線に比べて桁違いに多いので、車両に排雪装置などを付けるだけでも相当な投資となりますし、雪に慣れていない職員が大多数です。安全を守りつつ運行の安定を図る中で、投資が巨額になるのを防ぎつつ、気まぐれな気象と向き合わないとならない難しさがあります。
過疎高齢化の人手不足に直面する地域鉄道、巨額投資と異常気象に向き合う都心の鉄道、それぞれの苦労があります。除雪が追いつかず混乱するのは短期間なので、計画運休で混乱を避けようという動きも始まりました。
ただ、雪の季節は大学入学共通テストや成人式、高校の期末考査、卒業式などとも重なります。最も苦しい時期に全国一斉に重要な行事が行われているので、社会全般からの見直しも必要になるかもしれません。