JR四国が魚業スタート!? 「食べてみたら絶品でした!」 最初に養殖試みた意外な品種とは

JR四国が約2年をかけ事業化へ漕ぎつけたのは、なんと「魚の養殖」。鉄道会社がなぜ、新規事業として水産業を始めたのでしょうか。

東京のスーパーでも販売

「ミルクサーモン」をご存じでしょうか。キングサーモンとニジマスを人工交配させた養殖サーモンで、臭みがなく、脂は少なく、強い甘みと旨味を持ちます。いわゆる選抜育種ですが、この魚を生簀から育成して商品化したのは、JR四国です。

 なぜ、鉄道会社がサーモンを育成するようになったのでしょうか。発端は2022年にJR四国が募集した「鉄道だけじゃない『新時代』創造プロジェクト」でした。

 同社は「コロナ禍で苦しむなか、人流に左右されない事業立ち上げの必要性を認識し、第2の創業期として生まれ変わる決意を込めて、鉄道とは離れた事業分野を募集した」(JR四国広報室)と話します。

 募集時に例示されていたのは、JR四国の資産を活かせるなら、それこそアイドルのプロデュースなど「この事業、本当にJRがやっているの!?」と驚きのある事業でも可、という破天荒なもの。ただし、「3年以内の上市(新しい商品やサービスを市場に出すこと)を見据え、実現性と具体性があること」と条件付けされていました。

 それが今回、募集から3年以内の2024年8月に、「サーモンの養殖」という形で実現したわけです。JR四国によると、受賞した大西 拓氏のプロジェクト内容は当初、「完全閉鎖循環式でのエビ養殖」だったとか。この完全閉鎖循環式の養殖とは、海や川ではない陸上環境で魚介類を育成するというもので、ミルクサーモンの場合は天然地下水で育てることで、赤潮や虫による被害もなく安心で安全というメリットがあるそうです。

エビがなぜサーモンに?

 エビがサーモンに変わったのは、実際に養殖を行っている業者に対して、エビに限らずにヒアリングした結果なのだそう。

「養殖業者のひらやま様が行っていたサーモンの陸上養殖を実際に拝見し、その事業内容や取り組み実績、その想いなどを聞くなかで可能性を感じました。『ひらやま式陸上養殖システム』は、大手の巨大事業と異なり、地下水、設置場所、電気があれば養殖が可能であり、投資額が抑えられることもあり、今回の事業実施に至っています。社内からは反対もなく、むしろ応援の声が大きかった印象があります」(JR四国広報室)

 なおJR四国によると、最終的に四国に貢献(活力を与えうる)できる事業という趣旨のため、四国内での養殖実現を進めていたものの、完全閉鎖循環式の養殖に必要な地下水の採取や排水の調整が思ったより困難であったことから、今回は熊本県八代市に生簀を設置し、近い将来、四国内に広げていくという考えとのことです。

 なお、今後ミルクサーモンをどう展開していくのかについては、「当社はミルクサーモンのブランドありきで展開するつもりはありません。例えば、2024年12月に首都圏のスーパーにて販売した際には、JR四国の生簀から出荷したものをひらやま様のブランド『桃太郎サーモン』として販売しました。私たちは生産者ですので、例えば四国地域で展開する場合に、ご協力頂いた自治体から『〇〇サーモン』として販売したいという要望があるなら、協力させて頂く考えです」と話します。

 出荷先もグループ企業にこだわらないといい、四国地域と運命共同体であるという認識のもと、「四国を元気にしたい、地域活性化につなげたい」という考えで取り組むとしています。そこで、JR四国グループで展開する場合のみ「ミルクサーモン」として販売するそうです。

寿司とフレンチ料理で食べてみた

 筆者(安藤昌季:乗りものライター)は、「桃太郎サーモン」の名で東京都江東区のイトーヨーカドー木場店に期間限定で出荷されたサーモン寿司と、JRホテルクレメント高松のレストランで提供されたコース料理で、それぞれミルクサーモンを食べてみました。

 寿司として食べると、表面が非常に滑らかなことに驚きました。臭みはほとんどなく、味は「鮭と鱒の中間」。コクはありつつ非常にさっぱりとした、食べたことがない味でした。

 一方のコース料理は、フレンチの魚料理「マリネした『ミルクサーモン』のミキュイ。サフランと赤ワインソースのコントラストで」として味わってみました。「ミキュイ」とは、食材に完全に火を通さず、半生に仕上げる低温調理法です。皮はパリッと焼かれて香ばしいのですが、身はさっぱり感を残しつつ旨味が活性化されていました。

 ミルクサーモンは清廉な味わいですが、サフランと赤ワインのソースでコクを加え、付け合わせの野菜類で食感が複雑化しており、筆者は素材を活かした和食のような感性で作られたフレンチだと感じました。JRホテルクレメント高松では、同ホテルが3月末(食材の入荷状況で前後)まで展開しているフレンチおよび和食のコース内で提供されています。

 なお、同ホテルの「日本料理 瀬戸」では、香川県産のお米「おいでまい」を使った「ミルクサーモンとおいでまいの漬け丼」を、コースの一品として提供しています。筆者は口にしていませんが、料理の狙いとしては「ミルクサーモンの甘みと旨味を残しつつ、あっさりとした味わいを活かして漬け丼にした」というもので、地場食材を楽しんでほしいとのことです。

 JR四国は、観光列車「ものがたり列車」などで提供する料理に定評があります。そのような同社が、今後ミルクサーモンをどのように展開していくのか、興味は尽きません。

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