
インドネシア・ジャカルタの都市圏輸送を担うKAIコミューター「KCIコミューターライン」には、東京メトロやJR東日本から譲渡された車両が活躍しています。しかし古参のため置き換えられ数を減らしています。海を渡った日の丸車両の今を紹介します。
東京メトロ、JR東日本、東急電鉄の車両が譲渡
KCIコミューターラインは、インドネシアの首都ジャカルタの都市圏「JABODETABEK」の交通を担い、スカルノ・ハッタ空港線と6つの路線から構成される鉄道路線の総称です。約1067万人(インドネシア政府2023年統計)の足となっています。
独立運行のスカルノ・ハッタ空港線以外の各路線では、日本から有償譲渡された中古電車が活躍し、最大勢力のJR東日本205系、次いで東京メトロ6000系が路線の顔です。各路線とも、比較的出会いやすい存在です。
とはいえ、古参車両であることに変わりはなく、最近は数を減らしています。ジャカルタへ渡った日本の電車はどのような状況なのでしょうか。
先述の6000系は、KCIコミューターラインに対して電機子チョッパ制御車とVVVFインバータ車の計29本が譲渡されました。側窓が「田」の字形の初期車、下降一段窓へ改造された初期車、大型窓の後期車とバリエーションに富み、例えば田の字形初期車のチョッパ制御6007編成には、俗に「きのこ形状」と呼ばれるT字形連結面が健在です。また第二次試作車である6001編成も活躍しています。
その一方で、他形式は少数派の存在です。2025年2月現在で稼働しているのは、東京メトロ05系が2本、7000系が1本。JR東日本の203系と、東急電鉄8500系も1本ずつのみでした。
KAIコミューターへ尋ねると「まだ引退時期は分からない」との回答でしたが、203系、05系、6000系の一部、7000系はチョッパ制御車のため、制御機器の経年劣化と部品供給が難しい状況です。というのも、日本ではすでにチョッパ制御機器を製造しておらず、保守部品の入手も難しいからです。そのため、故障したら運用に就くことができません。
そのようななか中国製の新車が試運転
KCIコミューターラインは、乗車率100%以上が常態化しており、慢性的なラッシュを解消するために本数を増やしたいところですが、チョッパ制御車の故障が度々起こるようになっており、本数増大が難しい状況が続いていました。
そこで、インドネシア政府は日本からの中古車両の輸入をやめ、新車の輸入と自国内の新車開発へと舵を切っています。そのため、205系以降の中古車両の譲渡はなくなっており、現状の保有数で運行をカバーせざるを得ません。
2024年には、中国中車グループの中車青島四方機車車両(CRRC)社から、新型車両12両編成3本の導入を決定しています。2025年1月には待望の第1編成が中国から輸入され、2月11日より試運転を開始しています。さらに国産INKA(国営企業インダストリ・クレタ・アピ)製の新車も導入予定です。INKA製車両のデザインは、日本の一般的な通勤電車と似たフォルムで、12両編成16本の導入が予定されており、日本の車両製造技術も採用されるとのことです。
CRRCの新車が営業運転を開始し、INKA製の新型車両も現在製造中という状況を考えると、東京メトロの車両の去就が気になります。少数派となった車両に出会うのは容易ならざることですが、大動脈のボゴール線は本数も多く、ボゴール、デポック、ブキット・デュリと車両基地を配しているので、運用に就いていれば出会える可能性はあります。
2月にデボック基地を取材した際、チョッパ制御車の6000系34編成と7000系22編成が、着発収容線で休んでいる場面に遭遇しました。職員によると、22編成は廃車扱いとのこと。7000系の営業列車は23編成1本のみでしたが、その後CRRCの新車運行のため、22編成は建築限界試験車として試験走行を実施したそうです。34編成はこれからシステムを入れ替えると説明を受け、運転室ドアにはシステム交換の注意書きが貼られていました。なお、ヘッドライトは外されていましたが、まだ廃車ではありません。
現地で“映える”元・東西線05系
05系に関しては、実質的にタンジュンブリオク線専用の運用となり、008編成と010編成の2本がピストン輸送をしています。05系もチョッパ制御車のため、保守部品の供給は困難で、2025年2月時点では走行していたものの、いつ運用離脱となるのか分からない状況で、東急8500系が運用に就いたとの情報もあります。
タンジュンブリオク線の歴史は古く、ジャカルタ・コタ駅とタンジュンブリオク駅はオランダ統治時代に開業しました。重厚な駅舎とホーム屋根は05系と好対照で、コミューターラインへ訪れる際はぜひ乗車したい路線です。
ジャカルタがバタヴィアと呼ばれていた時代、1925年にタンジュンブリオク~ジャティネガラ間が直流1500Vで電化され、2025年でちょうど電化100年。運行形態も、当初は電気機関車による客車列車でしたが、電化網の拡大とともにオランダWelkspoor製とアメリカGeneral Electric製の電車も走りました。このように、同線はジャカルタの電化路線の礎を築いた路線でもあります。
また、チカラン線との乗換駅カンプンバンダンではホーム有効長が足らず、4両ほどのドアが線路上で開閉されます。4両編成だったタンジュンブリオク線は現在、8両編成も運用されているため、このような状態となっているのです。ドア近くに乗車中は、ドアの開閉にじゅうぶん気を付けましょう。
KCIコミューターラインの少数派車両はチョッパ制御車がほとんどで、引退時期は確実に迫っています。今後、CRRCとINKA製の新車が登場するため、顔ぶれは確実に変わります。そのような過渡期ゆえに、これから数年間は鉄道ファンの姿が多くなると思われます。駅常駐の警備員は日本以上に厳しい態度をとります。現地に訪れる際は、周囲に気を配り、余裕をもって少なくなりつつある日本生まれの車両を見送りたいですね。