
アメリカ海軍では、既存の駆逐艦および巡洋艦を置き換える新型水上戦闘艦「DDG(X)」の建造計画が進められています。じつは、海外メディアの報道によると、DDG(X)には艦載砲が搭載されていないといいます。その理由は一体何なのでしょうか。
最新イラストで消えた砲塔
世界の海上安全保障のニュースを報じるネイヴァル・ニュースは2025年1月12日、アメリカ海軍の次期水上戦闘艦「DDG(X)」の最も新しいイメージイラストを紹介。そのイラストでは、多くの水上戦闘艦に搭載されている「砲塔」が描かれていないと報じました。
DDG(X)は、アメリカ海軍が現在運用しているタイコンデロガ級ミサイル巡洋艦と、アーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦の後継となる水上戦闘艦です。両級と同じくイージス戦闘システムを装備し、対艦・対潜・対空・対地のいずれの任務にも対応できる水上戦闘艦として計画されています。
DDG(X)の開発計画は2021年から開始されており、アメリカ海軍は2022年1月22日にコンセプトとイメージイラストを発表していました。イメージイラストには装備兵装として艦前部のミサイルのVLS(垂直発射装置)の前に、タイコンデロガ級とアーレイ・バーク級、海上自衛隊のもがみ型護衛艦などが装備しているMk.45 62口径5インチ(127mm)単装砲の砲塔が描かれていました。VLSの前に砲塔を配するレイアウトは、タイコンデロガ級、アーレイ・バーク級を踏襲しています。
しかし2025年1月にDDG(X)の開発を主導するプログラムオフィスでマネージャーを務めていたマット・シュローダー大佐の退役式典で公開された最新のイメージイラストでは、艦首部はもちろん、見たところどこにも艦砲は描かれておらず、艦首部には砲塔の代わりにミサイルのVLS(垂直発射装置)が配されています。
艦船が戦争に用いられるようになった14世紀ごろから現在に至るまで、艦砲は水上戦闘艦の必須装備となっています。登場したころの艦砲は敵の艦船を沈めるほどの威力はなく、敵艦のマストを破壊して航行不能にしたり、搭乗している人員に向けて撃ったりする兵器だったと伝えられています。
しかしその後は砲の高性能化と、それに対抗するための艦船の装甲化が進んだことから、艦砲は装甲艦を撃沈するために大口径化の一途をたどり、19世紀末には大口径砲を多数搭載した重装甲の「戦艦」が登場しました。そして、戦艦同士が大口径砲を撃ちあい、敵艦を撃沈する海戦が日露戦争(1904~05年)や第一次世界大戦(1914~18年)において発生します。
その後、第二次世界大戦(1939~45年)までは世界のパワーバランスを左右する戦略兵器と位置づけられていましたが、第二次世界大戦で艦砲の砲弾の到達距離よりも遠くへ精密な攻撃ができる航空機に海戦の主役の座を奪われ、戦後は対艦ミサイルが登場したことから、戦艦はもちろん、艦船に大口径砲を搭載することは無くなりました。
艦砲無しでどう戦う!? 世界の海軍が注目するその行方
ただ、艦砲の砲弾はミサイルより価格が安く、常備弾を打ち尽くした後の再装填も容易であることから、小口径砲は艦船の重要な兵器であり続けてきました。また21世紀前半にかけては、対テロ戦などの非正規戦における有効な対地攻撃の手段として評価され、その時期に開発されたもがみ型護衛艦などの水上戦闘艦は、艦のサイズからすると不釣り合いなほどの大口径砲を装備しています。
もしもDDG(X)が直近のイメージイラスト通りに実用化されるとすれば、数百年ぶりに艦砲を装備しない水上戦闘艦が出現することになります。
仮にそうなった場合、考えられる理由はいくつか挙げられるのですが、一つはDDG(X)が、既存の艦載レーザーよりもはるかに強力で、自艦を攻撃してくるドローン対艦ミサイルなどの迎撃も可能な、出力600kw級のレーザー兵器の装備を前提としているためなのではないかと考えられます。
現在の水上戦闘艦は対艦ミサイルなどの迎撃に、艦砲と機関砲や短射程ミサイルを使用する近接防御兵器を使用していますが、DDG(X)はこの任務を高出力レーザー兵器に代替させることを志向しています。
また、前に述べたように、DDG(X)の最新のイメージイラストでは、過去のイラストで砲塔のあった位置にVLSが描かれています。このVLSは2022年のコンセプト発表時に明言されていた、現用のMk.41より大型にもののように見えますので、ここから直径の大きいミサイルを発射して、対地攻撃手段を行うという考えなのかもしれません。
2022年の時点で、DDG(X)の1番艦は2028年の建造開始を予定していましたが、アメリカ海軍のマイケル・M・ギルティ前作戦部長は2023年2月に、レーザーなどの新技術が熟成するまで、DDG(X)の設計と購入のペースをスローダウンすると述べており、1番艦の建造開始は2030年代までずれこむ可能性があります。
その間、DDG(X)のコンセプトは何度も変化していくと思われますが、本当に艦砲を装備しない水上戦闘艦となるのか否かは、世界中の海軍から注目を集めそうです。