
映画『ゴジラ-1.0』がロングラン上映を続けています。劇中に登場しインパクトが大きかった戦闘機「震電」の原寸模型が福岡県の平和記念館に展示されて話題になっていますが、実は茨城県にも撮影で使われた「震電」が存在します。
九州まで行かなくても「震電」に会える!
怪獣映画の代表作といえる『ゴジラ』。そのシリーズ最新作である『ゴジラ-1.0』(マイナスワン)が “快進撃” を続けています。その勢いは海外にも波及しており、アメリカでは実写の日本映画として興行記録を塗り替えるほどの大ヒットにもなりました。 この映画では、新たなゴジラの造形や存在感あるVFX技術と共に、旧日本海軍の重巡洋艦「高雄」、駆逐艦「雪風」「響」、零式艦上戦闘機(零戦)五二型、さらには旧日本陸軍の四式中戦車など、旧軍兵器が多数登場して話題になっています。 これら兵器の中でひときわ注目を集めているのが、物語の後半に出てくる旧日本海軍の戦闘機「震電」でしょう。同機は、先尾翼(エンテ)と推進(プッシャー)式というプロペラが後ろに付いた、一般的なプロペラ機とは前後逆に見える異形の戦闘機で、その劇中での活躍と相まって、日本軍機ファンを唸らせました。
この映画撮影用に作られた「震電」のプロップ(原寸模型)が、福岡県の筑前町立大刀洗平和記念館で展示されています。映画公開後に関係者が明らかにしたことから、現在ではよく知られています。実際、映画を見たファンが全国からこの記念館へ続々と訪れるようになっており、いまでは人気スポットにもなっているとか。 しかし、それとは別に映画で使われた「震電」が関東地方で展示されていることをご存じでしょうか。 それは茨城県美浦村の鹿島海軍航空隊跡において展示が始まった撮影用セットです。こちらはコクピット部分だけですが、それでも一見の価値があるほどの「こだわりの逸品」となっています。
幻の局地戦闘機「震電」とは?
そもそも、この『ゴジラ-1.0』に登場した戦闘機「震電」とはどんな機体なのでしょうか。 旧日本海軍において「十八試局地戦闘機」とも呼ばれた「震電」は、戦局を挽回する画期的な高速戦闘機として1943(昭和18)年頃から海軍航空技術廠により基礎研究や開発が始まりました。そして試作機の設計や製造は、三菱重工や中島飛行機のような大手の航空機メーカーではなく福岡県にあった九州飛行機が担当します。 試作機は、過給器付きの空冷星形18気筒エンジン「ハ43-42」(2130馬力)を搭載して太平洋戦争末期に完成しました。 計画では、高度1万m以上を飛んで日本に襲来するアメリカ軍の大型爆撃機B-29を迎撃可能な最新の高高度戦闘機として生まれる予定でした。しかし実際は、度重なる工場空襲や疎開などで開発は遅延、終戦直前の1945(昭和20)年8月3日に初飛行を終えたまま実戦には投入されずに終わっています。
なお、「震電」は機体後部でプロペラが回っているため、緊急脱出時にパイロットが巻き込まれる危険があることから、試作2号機以降はプロペラハブ内に火薬爆破式のプロペラ飛散装置を組み込む予定でした。 一方、『ゴジラ-1.0』に登場した機体にはドイツ製の圧縮空気式射出座席が設けられています。この装置は第2次世界大戦末期のドイツで世界に先駆けて実用化され、He162ジェット戦闘機などに搭載されて多くのパイロットの命を救った装置です。 これは、あくまでも筆者(吉川和篤:軍事ライター/イラストレーター)の想像ですが、戦時中にドイツの潜水艦「Uボート」で日本まで運ばれた射出座席のサンプルが使われた、という設定なのかもしれません。
茨城の「震電」にもあのレバーが!
「震電」のコクピットを再現した撮影用セットが展示されているのは、前述したように茨城県美浦村の鹿島海軍航空隊跡になります。 ここは、国内最大級の戦争遺構といえる場所で、そのなかの本庁舎2階で見ることができます。なお、こちらは大刀洗平和記念館とは異なり、間近まで近寄ることが可能です。 コクピットは、展示では機体と一体になっていますが、元々は撮影のため前後に分割できる構造で、計器盤の左下には爆弾の安全装置を解除するための赤いレバーが、座席右側には射出座席の発射レバーがそれぞれ見えます。ただし、大刀洗の展示機とは微妙な相違点があり、座席上部の形状が異なっているほか、劇中では印象的にスクリーンに映し出される、赤字のドイツ語で記された注意書きが入ったヘッドレスト下の白いプレートもありません。 それでも、「震電」の格納庫や出撃シーンは、この航空隊跡の戦前から残る自動車車庫で撮影されており、ここも立派な映画の “聖地” には違いないと言えるでしょう。
この霞ヶ浦の南側湖畔には、旧日本海軍の水上機実習訓練施設が1938(昭和13)年5月に発足しており、ここで練習生らに対して水上機の操縦訓練を行っていました。加えて太平洋戦争の末期には、特攻隊員の養成も行われています。こういった場所のため、本庁舎や気缶場(ボイラー室)、発電所、自動車車庫などの建物や遺構が現在も数多く残されており、実際に訪ねてみると時が止まったかのような不思議な印象を受けます。 映画『ゴジラ-1.0』は、2024年1月から白黒フィルム上映の『ゴジラ-1.0/C』(マイナスワン/マイナスカラー)も始まり、ますますの盛り上がりを見せています。この機会に、“聖地巡礼” を兼ねて、鹿島の地で映画に用いられたもうひとつの「震電」を見学するのも良いのではないでしょうか。