
中国軍の戦闘機が危険な飛行をするのは、対アメリカ軍機に限らないようです。その1週間ほど前にはカナダ軍機も同様の被害に遭っていました。しかも中国本土からだいぶ離れた場所で。詳細をカナダ国防省に聞きました。
中国戦闘機による米戦略爆撃機への異常接近
2023年10月24日(火)、南シナ海上空の国際空域(領空の外側に広がるどの国の航空機でも自由に飛行できる空域)を飛んでいたアメリカ空軍の戦略爆撃機B-52「ストラトフォートレス」に、中国軍のJ-11戦闘機が異常接近しました。 アメリカ国防総省の発表によると、視界の悪い夜間飛行中であったにもかかわらず、J-11はB-52に対して10フィート(約3m)以内にまで接近してきたとのこと。アメリカ側が、その際に撮影した動画も公開されています。
このように、国際法上は問題のない飛行を行っているアメリカ軍機に対して、中国軍機が危険な接近(インターセプト)を行う事例が近年増えつつあります。アメリカ国防総省によると、2021年の秋以降、このような事例は180件以上発生しているといいます。 じつは、こうした危険なインターセプトはアメリカ軍に対してのみ行われているわけではありません。直近の事例では、カナダ空軍の対潜哨戒機CP-140に対しても行われています。 2023年10月16日(月)、東シナ海および黄海上空を飛行中であったCP-140に対して、中国軍の戦闘機が5mの距離まで接近してきました。さらに、ミサイルを回避するために用いられる欺瞞用の熱源、いわゆる「フレア」を放出するなど、危険かつ挑発的な飛行を行ったということです。
瀬取り監視のカナダ軍機も同じトラブルに
カナダ国防省によると、このCP-140は沖縄県のアメリカ空軍嘉手納基地に展開している機体で、活動の目的は、船舶同士の海上での物資のやり取り、いわゆる「瀬取り」を監視することです。 北朝鮮に対しては、核兵器や弾道ミサイルの開発を止めさせるべく、現在、国連安全保障理事会の決議に基づく経済制裁が行われています。しかし、北朝鮮はこの経済制裁をかいくぐって、他国から資金や物資を入手しています。その手段の一つが瀬取りです。北朝鮮籍の船に対し、他国籍の船から燃料や物資を海上で積み替えることで、密かに制裁品目を入手しているわけです。
そこで、日本を含めた各国は、経済制裁を履行すべく共同で瀬取り監視活動を実施しています。なかでも、カナダは「オペレーションNEON」と呼ばれる瀬取り監視のためだけの作戦を2018年より実施しており、海軍の艦艇や空軍のCP-140を定期的に東シナ海や黄海に展開させています。 カナダ国防省によると、1回ごとの活動期間は6週間で、前回の春季展開においては、16ソーティ(任務のために航空機を使用した回数)、約160時間の任務飛行を行い、19隻の船舶を監視。そのなかで瀬取り行為を3回確認したといいます。こうした監視情報は、日本やアメリカを含む瀬取り監視活動の多国籍司令部(ECC)に送られ、そこで分析されたのち、国連の専門家委員会に報告されます。
カナダ国防省の見解は?
CP-140への危険なインターセプトに関して、中国外務省の報道官は、「カナダは国連安全保障理事会の決議履行を口実に、中国に対する挑発を行っている」としたうえで、カナダ軍機が尖閣諸島の上空を飛行し、「中国の主権を侵害した」として非難しました。 果たして、本当にCP-140は尖閣諸島上空を飛行したのでしょうか。筆者(稲葉義泰:軍事ライター)の質問に対して、カナダ国防省は次のように回答しています。「全般的な任務上の活動は、主に東シナ海および黄海という、日本と韓国周辺の国際海域および国際空域において実施されています。(中略)監視活動の実効性を保護するため、具体的な活動の地理的範囲については明らかにできません。しかし、インターセプトが行われたのは諸島(the islands)の近くではなく、国際空域であったということは明確にお答えできます」
カナダ国防省は、インターセプトが行われたのは尖閣諸島の近くではないと明言しました。たしかに、北朝鮮による瀬取りは、これまでも東シナ海の中国沿岸部や黄海で行われており、その監視を目的とするCP-140が、わざわざ尖閣諸島上空を飛行する理由は見当たらないと、筆者も考えます。 カナダ国防省としては、今後もCP-140による活動を継続する予定で、前述した「オペレーションNEON」も、2026年4月まで継続するそうです。いずれにせよ、こうした活動は国際法上何の問題もないことから、中国側に自制を求めるほかはありません。