
大ヒット旅客機「ボーイング737」「エアバスA320」を大いに意識し開発したと思われる中国産旅客機「C919」などは、海外の航空ショーに実機を展示した例は見られません。これにはどのような理由があるのでしょうか。
「C919」そして「ARJ21」も実機展示ナシ
世界の航空会社で採用されている単通路旅客機「ボーイング737」「エアバスA320」をライバルとして、中国が生み出したモデルが「C919」です。2023年5月に商用運航に入ったこの機の受注数は1000機を上回ったとされており、その状況は“躍進”といえるでしょう。 ただし、中国製旅客機が国外で使われた例はごくわずか。また、世界的な市場へ大きくアピールできる、自国以外の航空トレードショーで実機展示がされたという情報はほぼありません。なぜこのような戦略をとっているのでしょうか。そして、中国製旅客機を海外で本格的に見ることは今後あるのでしょうか。
C919は、150~190人乗りで、2017年に初飛行しました。先述の通り、1000機を超える受注を獲得しており、2023年9月には、中国東方航空より100機の受注を獲得したとされています。こういった状況からA320と737シリーズのライバルになる可能性も否定できません。 また、中国では、ひと回り小型のリージョナル(地域間輸送)向けのジェット旅客機「ARJ21」もすでに実用化されています。しかしこの機もC919と同じく、中国国外の航空トレードショーで実機が展示された例を聞かないのです。 C919を製造する中国商用飛機(COMAC)や中国航空工業集団(AVIC)など中国勢は近年、英・仏などの航空トレードショーで広いブースに大型模型を展示しています。2024年2月に開催されるシンガポール航空ショーのニュースレターでも、COMACの出展は早々に発表されています。それにもかかわらず、これまで実機の展示はないのです。 ボーイングやエアバス、ブラジルのエンブラエルなどは、試験段階の機体でもショーで実機を展示し、機内を航空会社や報道陣に公開しています。これに対して、中国が実機を展示しないのはなぜなのでしょうか。
中国の旅客機が「実機展示」しないワケ
筆者は会場で、中国の航空機メーカーに担当者にこの理由を聞いたことがあります。担当者によると「中国国内のショーで公開します」とのこと。しかし、これとは別に、C919はすでに、中国国内の航空会社と航空機リース会社の需要で今は足りているためと考えられます。 もう一つ、中国製の旅客機の実機がショーに出現しない理由は、「品質」に関わる点といえるでしょう。C919もARJ21も、いわば“世界標準”である米連邦航空局(FAA)や欧州航空安全機関(EASA)より、実用化に不可欠な認証である「型式証明」を取っていません。 このことは、中国がもともと自国以外で導入される望みは薄いと踏んでいるとも考えられます。また、同国では、ジェット旅客機の製造技術を急速に伸ばしたため、欧米の技術獲得に絡んだ、特許問題も潜んでいる可能性も否定できないでしょう。
では、C919が中国以外での航空トレードショーに姿を現したり、航空会社が導入したりすることはあるのでしょうか。 推測のための要素の一つとなるのが、2023年4月にインドネシアの地域航空会社である、トランスヌサ航空で始まったARJ21の商用運航であると、筆者は考えています。トランスヌサ航空は中国の航空機リース大手、中国飛機租賃集団(CALC)が共同支配株主とされています。 中国は、広域経済圏構想「一帯一路」の関連諸国へ供給し販売機数を増やそうとしているのではないでしょうか。各所からの情報によると、9900万ドル(1ドル140円として約139億円)とされるC919の機体価格も、中国の航空会社へは大幅な割引がされているとされています。 グローバルスタンダードである欧米の型式証明を取得せずとも、自国資本の海外進出を背景に、中国はC919、ならびにARJ21の販売を目論んでいるとも考えられます。そして、海外の航空トレードショーへC919の実機が展示された時こそ、中国が自国の旅客機を世界中で実用化できると自信を深めた時かもしれません。