「世界初の水素旅客機」ソ連に実在!? 大ヒット機を魔改造した30年以上前の“代替燃料機”とは

現在航空業界でトレンドとなっているのが、水素駆動のエンジンを用いることで環境負荷を低減した新型旅客機の開発です。実はこの「水素エンジン搭載旅客機」、30年以上も前に、ソ連で飛んでいました。

ソ連版ボーイング727をベースに

 世界の航空界では、「脱炭素社会の実現」に向けて、様々な対策が検討されています。そのひとつが、エンジンから発生するCO2排出量をゼロとすべく、水素を動力源とするエンジンを搭載した旅客機の開発です。しかし実は、この「水素燃料」で旅客機を飛ばすという取り組みは、約35年前にすでに実施済み。それは旧ソ連(現ロシア)が手掛けたツポレフ設計局製の「Tu-155」試験機でした。

 Tu-155は、ツポレフ設計局が開発した航空燃料以外の燃料搭載試験機で、1000機以上製造された同局製のヒット旅客機「Tu-154」をベースに開発されました。 Tu-154は、エンジンを三基尾部に搭載し、垂直尾翼の上部に水平尾翼を装備したレイアウトが特徴。大きさは全長約50m、主翼の幅が約40mで、ちょうど、JAL(日本航空)やANA(全日空)でも用いられたボーイング727のソ連バージョンということができる旅客機です。日本路線にも投入されてきました。 かつてのソ連航空界では、エンジンの動力として原子力を使用する取り組みもあり、実際に原子炉を航空機に積んでの飛行なども実施されましたが、安全性の観点から、それ以上に進展させることは不可能でした。そのようななか、アレクセイ・ツポレフ氏が中心となって、「水素エンジン」の旅客機の開発が始まります。

Tu-155試験機、原型機からどこを改造?

 Tu-155試験機は、Tu-154を製造していたアビアコア社で改造作業が実施されました。尾部右側にあるエンジンを、通常型のクズネツオフ設計局製NK-8-2から、水素ガスタービン・エンジンNK-88に換装。胴体後部半分に冷却装置も含めた広大な燃料タンクを装備しました。なお、水素燃料の使用時間は約2時間だったそうです。 その後、Tu-155は、1988年4月15日初飛行。このときには、エンジン3基のうち1基を水素燃料、2基を通常のジェット燃料駆動のもので離陸しています。また、翌年に同機は、エンジンをLNG(液化天然ガス)で駆動するものに交換し、100回近くの飛行試験を実施。これらの試験で14の世界記録を樹立しました。なお、先述の水素エンジンを一部に組み込んだ状態での飛行試験は、5回実施されたと記録されています。

 なおこのプロジェクトで水素が燃料として用いられたのは、環境への影響が低いことなどから、当時より次世代の航空燃料として注目を集めていたため。一方でLNGが燃料として用いられたのは、化石由来であるジェット燃料よりも、遥かに埋蔵量が豊富であるゆえに値段が安価になると見込まれていたこと、有害物質の排出量の減少が期待できることなどが挙げられます。 ちなみにツポレフ設計局では、その後、Tu-156というLNGエンジン機も計画されたものの、ソ連の崩壊もあり実機の飛行には至りませんでした。 そんなTu-155試験機、現在でもジューコフスキー近郊のラメンスコイ飛行場に収蔵されており、ロシアの航空ショーなどで一般公開されているそうです。

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