
JR尾久駅の近くに、エレベーターが備わった屋根付き跨線橋があります。地元の北区も利用を推奨していますが、脇には踏切があり、わざわざ跨線橋を使う人はわずか。なぜ2者が共存しているのでしょうか。踏切は廃止できないのでしょうか。
入れ換えの機関車も通過
踏切を解消するには、線路か道路のいずれかを高架もしくは地下にするなどの方法がありますが、線路側を立体交差化するのは道路よりも大掛かりになりがちです。時間やコストを勘案すると、跨線橋の設置は手軽な立体交差の手法といえるでしょう。その第一歩として、歩行者用の跨線橋が架けられることもあります。
歩行者用の跨線橋といえば、歩道橋のような簡素なものが多いですが、東京都北区のJR尾久駅から400mほど北西には、屋根とエレベーターが付いた跨線橋があります。しかも一説では、これらの設備の採用は国内初だそうで、跨線橋には「上中里さわやか橋」という名称まであります。 しかし、脇には踏切も残されています(梶原踏切)。線路を横断する手段が2通りある形ですが、これでは「上中里さわやか橋」が無用にも思えます。なぜ、このような状況になっているのでしょうか。 尾久駅は東北本線(宇都宮線)と高崎線が発着。特に朝のラッシュ時は電車が行き交い、踏切は開かなくなります。また、下り電車の停車中はその出発直前から踏切が閉まるので、通過本数のわりに遮断時間は長くなります。昼間も、駅に隣接する尾久車両センターを機関車が発着するなどし、入れ換え作業中に踏切は遮断されたままとなります。 そうした事情から北区は1998(平成10)年10月、踏切のすぐ脇に「上中里さわやか橋」を設置。しかし歩行者と自転車だけが通行可能で、バイクなどでは利用できません。そのため、跨線橋が完成した後も踏切は残されたのです。
本郷通り~明治通り結ぶ陸橋案もあったが…
しかし、それならわざわざ跨線橋を使おうとする人は少数です。筆者(小川裕夫:フリーランスライター・カメラマン)はかつて北区の関係者から、梶原踏切について話を聞いたことがあります。その際、区議会議員などから同踏切を廃止する意見も出ていました。 2000(平成20)年ごろには、線路をオーバークロスしつつ、線路北側の大通りである明治通りと、南側の本郷通りを陸橋で結ぶ案があったようです。梶原踏切は明治通りと本郷通りに挟まれた場所にありますが、もし陸橋が実現していれば踏切を廃止することはできそうです。
しかし陸橋が完成しても、その間のエリアの住民には恩恵がありません。それどころか頭上をクルマが通過していくことになれば、住民たちは日照権や景観、振動・騒音といった問題に悩まされたことでしょう。 この陸橋案はどれほど実現性が高かったのか――今となっては知る由もありませんが、2023年1月現在は「上中里さわやか橋」と梶原踏切が共存しているわけです。 2015(平成27)年、上野東京ラインが開業すると、東海道本線の電車も乗り入れるようになりました。踏切の脇には「事故が多発しています。エレベーターをご利用ください」という看板も出ていますし、利用して損は全くなさそうです。眼下が車両センターで開けているので、跨線橋と侮るなかれ周辺を一望できます。