
1月24日は、 航空機会社ハインケルの創設者でドイツの航空機産業に多大な貢献をしたエルンスト・ハインケル博士の誕生日です。博士が起こした同社は、革新的な発想と技術の高さに定評がありましたが不遇でもありました。
世界初の有人ロケット機He176
今から130年以上前の1888年1月24日、 ドイツの航空機産業に多大な貢献をしたエルンスト・ハインケル博士が誕生しました。彼は航空機会社ハインケルの創設者であり、数多くの航空機を設計・開発しています。
ハインケル社は革新的な発想と技術力の高さで、画期的な軍用機を1920年代から1940年代前半にかけて数多く開発しました。しかし画期的なのは開発までで、不遇な扱いが多いことも特徴でした。そこで、なかでも象徴的ともいえる4機を紹介します。 第2次世界大戦直前の1939年6月20日、世界初のロケットエンジン飛行機として初飛行に成功したのがHe176です。画期的であった点はそれまで無人ロケットで使用されていた、原始的な固体燃料(火薬)ではではなく、液体燃料にしたところでした。最高速度は約750km/hで、当時の航空機としてはかなりの高速でした。 しかし、それまでの航空機ではありえないような主翼の短さ、離陸して1分にも満たないエンジン稼働時間などが影響し、操縦安定性に難ありとしてドイツ空軍は開発中止を通達。ハインケルン博士は開発の延長を要望しますが、アドルフ・ヒトラーの前で展示飛行したのが最後となりました。 なお、ロケットエンジンの研究自体はその後も続けられ、メッサーシュミットが開発したMe163が世界初の実用ロケット戦闘機として1941年に初飛行しています。
世界初のジェット機He178とHe280
ロケットエンジンの開発と並行してハインケルン博士は、ジェットエンジン開発の第一人者である、ハンス・ヨアヒム・パプスト・フォン・オハインを招き自社でジェット推進の航空機開発も行っています。その成果が結実したのが1939年8月27日に初飛行したHe178です。
これはジェットエンジンを搭載した航空機としては世界初の進空で、同じくイギリスで開発されていたグロスターE.28/39の初飛行より1年も早いものでした。 とはいえ、当時のドイツ空軍の反応は芳しくないもので、これについて戦後、ハインケル博士は「冷や水を浴びせられたようだった」と回想しています。 ただ、ハインケル社はこれに懲りずに改めて新型のジェット機を開発しています。それがHe280でした。同機は流線形の胴体に射出座席を備え、ドイツ機として初めて前輪式の降着装置を採用。機首に20mm機関砲3門を搭載した同機は、後に続くジェット戦闘機の原型ともいえる機体で1941年3月30日に初飛行し、世界で初めて飛んだジェット戦闘機になりました。 ですが、調子が良かったのはここまでで、自社製エンジンHeS 8の信頼性が低かったことから実用化に向けた開発は難航、結局エンジンをユンカース社製ユモ004に変更しています。しかし、同エンジンは、後発のメッサーシュミット社製Me262ジェット戦闘機に搭載予定だったことが大きな影響を及ぼしました。性能的にMe262はHe280よりも優れていたため、結局ドイツ空軍はMe262の方を採用し、He280は試作のみで終わりました。
「国民戦闘機」と呼ばれたHe162
第2次世界大戦末期、戦局の悪化からメッサーシュミット社製のジェット戦闘機Me262の生産が滞ると、ドイツ空軍はもっと簡素な設計でとにかく早く飛ぶことができるジェット戦闘機を要求するようになりました。 そこでHe280未採用以降も、独自に社内プロジェクトとして軽ジェット戦闘機の開発を続けていたハインケル社に、新しいジェット戦闘機の開発が命じられます。
He162は、木製のパーツが多用され、胴体上部に背負い式でBMW 003ジェットエンジンを搭載していました。設計案が1944年9月25日に採択されてからは驚異的なスピードで開発が進み、約2か月後の12月6日には試作機の初飛行にこぎつけています。 最高速度は905 km/hと高速で、武装も30mm機関砲2門または20mm機関砲2門を機首に集中装備するなど強火力でした。同機には「国民戦闘機」を意味する「フォルクスイェーガー」という愛称が付けられており、かなり大きな期待がかけられていたことがうかがえます。 しかし、本格生産を開始したのは1945年1月で、ほとんど戦果らしい戦果を挙げる前に戦争が終わってしまいました。 ジェットエンジンや戦闘機では不遇な扱いを受けていたハインケルでしたが、レシプロ双発機の分野では、大戦前半で主力として運用された双発爆撃機He111、本格的な夜間戦闘機のHe219「ウーフー」などの傑作機を生み出しています。先進的な技術を持ちつつ、ジェット機が採用されなかった理由としては、ドイツ空軍のメッサーシュミット優遇や、技術的に複雑になりすぎ、量産性や実用面に問題があった点などが挙げられています。